理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-275
会議情報

ポスター発表(一般)
膝前十字靭帯損傷患者におけるScrew Home Movementの検討
飯田 智絵原藤 健吾櫻井 愛子工藤 優砂田 尚架福井 康之大谷 俊郎
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】
Screw Home Movement(SHM)とは,膝関節が屈曲位から伸展するに伴い外旋し,終末期で受動的な外旋運動が大きく起こる運動である.SHMは,健常者の膝関節に共通して起こる現象として認識されてきたが.近年,動作解析システムの発展,実際の骨運動と整合性の高いPoint Cluster Technique(PCT) の開発により,健常者の中でも内旋型や終末内旋型があることが報告されている.SHMは,靱帯・骨の形状が関与していると推察されており,膝前十字靱帯もその一因である可能性が高い.今回我々は,ACL損傷膝,非損傷膝,健常膝のOpen Kinetic Chain Exercise (OKC)における回旋パターンと膝関節伸展角度,回旋角度変化量の関係を検討することにより,ACL損傷によるSHMの特徴を示すことを目的とした.
【方法】
対象は,ACL損傷患者5名10膝(平均年齢22.8±4.3歳,男性1名・女性4名,受傷からの期間3.1±2.1ヶ月),健常者5名10膝(平均年齢24.8±2.0歳,男性2名・女性3名)であった.被検者にはGarter-Wilkinsonの方法に従ってJoint Laxityテストを行い,5項目の検査のうち3項目が一致する者を陽性とした.
計測は,体表に赤外線反射マーカー36点を貼付し,三次元動作解析装置VICON MX(カメラ10台)を用いた.膝関節伸展運動は,端座位で股関節,膝関節90°屈曲位から最大伸展を目標とした.計測したマーカーの位置からAndriacchiらのPCTを用いて,膝関節屈曲伸展,前後方向偏位,回旋角度を算出し,伸展開始角度69°の値で補正した後,ACL損傷膝,非損傷膝,健常膝の3群間で比較を行った.統計学的解析にはANOVAを用いた.
また,伸展に伴い内旋し終末期に最大内旋の値を示す内旋型,伸展の中間期に最大外旋の値を示しその後内旋していく終末内旋型,終末期に最大外旋の値を示す外旋型にパターン分類し,それぞれの膝がどのパターンに属するかを検討した.
【説明と同意】
国際医療福祉大学三田病院倫理委員会の承認を得て,対象者に口頭と文書にて説明を行い,研究の参加に対する同意を得て行った.
【結果】
ACL損傷膝,非損傷膝,健常膝で比較した結果,膝関節屈曲伸展の際の回旋変化量(平均値,標準偏差)は,ACL損傷膝5.3±1.2°,非損傷膝8.5±5.6°,健常膝7.4±5.3°,であり,統計学的有意差は認められなかった.パターン分類の結果は,内旋型6膝(ACL損傷膝1,非損傷膝1,健常膝4),終末内旋型6膝(ACL損傷膝2,非損傷膝1,健常膝3),外旋型8膝(ACL損傷膝2,非損傷膝3,健常膝3)であった.Joint Laxity陽性者は,ACL損傷膝で内旋型1膝,終末内旋型2膝,健常膝で外旋型1膝であった.
【考察】
健常者の膝関節は,屈曲位から伸展するに伴い外旋し,終末期で受動的な外旋運動が大きくなるSHMが起こるとされている.しかし,健常者の中でも内旋型や終末内旋型があることが石井らにより報告されている.今回の結果からも,これまでの報告と同様に健常者でもやはりSHMの見られない膝が数多く存在することが判明した.
今回我々は,ACL損傷膝では脛骨内旋による制動が生じず,内旋が過剰になることが予測されるため,ACL損傷膝は内旋型・終末内旋型をとらないのではないかと推測したが,ACL損傷膝の中でも内旋型1例,終末内旋型2例が認められた.しかし,内旋型1例と終末内旋型2例において,非損傷膝に対するACL損傷膝の最大伸展角度差,回旋角度変化量差を見ると,ACL損傷膝を伸展しない,もしくは回旋角度変化量を少なくする傾向が認められた.これは,膝関節伸展に伴う内旋を制限するための代償運動である可能性が示唆された.更に,ACL損傷患者の中でも内旋型1例,終末内旋型2例,外旋型2例とその傾向は一様でなかった.本研究の結果からは,ACL自体はSHMに直接関与していない可能性が示唆された.また,石井らの報告では,終末内旋型ではjoint laxityの強いものが多かったと報告されているが,joint laxity陽性者は,ACL損傷膝で内旋型1膝,終末内旋型2膝,健常膝で外旋型1膝と一様ではなかった.健常者における回旋パターンや角度変化量とjoint laxityでも関連性が見られなかったため,今後は,被験者数を増やし,回旋パターンに関与するjoint laxity以外の要因も検討していく必要がある.
【理学療法学研究としての意義】
今回の結果では,ACL損傷患者のSHMパターンは損傷側,非損傷側ともに健常者と同様に一様でなく,ACLに過負荷が生じるかどうかは不明であった.今後術後患者に関しても検討を重ね,OKC Exの開始可能時期を明らかにしていく必要があると考えられた.

著者関連情報
© 2011 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top