理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-286
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ポスター発表(一般)
「第65回国民体育大会山岳競技」帯同報告
初の公式帯同にて明らかになった課題と今後の対策
高橋 崇太岡坂 政人白井 唯
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抄録

【目的】
今回、神奈川県体育協会(以下県体協)から依頼を受け、第65回国民体育大会(千葉国体)に、山岳競技神奈川県代表トレーナーとして帯同する機会を得た。同大会の山岳競技に於るトレーナーの帯同は今回が初の試みであり、チームスタッフ間の連携や選手への関わり方に課題は残った。しかし、概ね良好な活動が出来たと考えている。
そこで、活動内容を報告すると共に、帯同にて明らかになった今後の課題と対策についても述べてみたい。
【方法】
活動期間は平成22年10月1日から4日である。大会前には、施行内容、携帯備品検討のため、選手に身体状況をアンケートにて情報収集した。大会中のトレーナーは選手隔離場所であるアイソレーションルーム(IR)に1人、会場に2人の理学療法士を配置した。また、宿舎での処置も行った。
携帯器具は、治療用ベッド1台、治療用マット2枚、クーラーボックス2個、アイシングバッグ6個、低周波1台、EMS1台、ホットパック、テーピング各種、アイスラブ、メンタームQ等消耗品を用意した。
主な施行内容は、競技前後のクーリング、ストレッチ、マッサージ等の徒手療法を施行した。また、希望に応じてテーピングも施行した。競技後のクーリングに関しては、クーラーボックス、またはアイスバッグの水温を10~15°に保ち施行した。
【説明と同意】
事前アンケートに関しては、経験年数・現病歴、既往歴、処置希望部位の項目を作成した。アンケート回答に関しては、監督選手へ承諾を得た上で配布し記入して頂いた。
トレーナーとしての活動に関しては、各選手へ現在の身体状況を説明し施行した。
【結果】
事前アンケートの結果は、肩1件、前腕1件、手指1件、腰背部1件であった。また、既往歴として、手指の腱鞘炎1件、TFCC損傷1件が挙げられた。
今大会中の処置件数集計は、県体協指定の用紙により主訴部位、処置部位、処置方法の件数をまとめた。大会期間中に対応した選手数は、実人数10名、延人数28名、延件数138件であった。主訴部位は、前腕13件、手指10件、肩関節9件、腰背部17件、頸部3件、下腿1件であった。処置部位は、前腕18件、手指13件、肩関節10件、腰背部16件、股関節9件、頸部3件、下腿8件であった。処置方法はアイシング0件、マッサージ22件、低周波治療7件、テーピング2件、徒手療法5件、クーリング20件であった。
今大会中、チームの選手において障害や事故を呈することなく大会が終了した。
【考察】
山岳競技は、リード、ボルダリングの2種目に分けられる。リード競技は壁に設置された金具に、自分で登りながらロープを通し、安全を確保して登っていく競技である。ボルダリング競技は一般に高さが5m位までの岩や壁を、ロープを使わずに登る競技である。今回の集計結果より、前腕、手指、腰背部の主訴、処置件数が多かった点に関して述べていきたい。2つの競技に関して共通の動作は、把持動作である。競技はホールドと呼ばれる把持物を掴み登っていく。把持動作はホールドの形が一定ではなく多種多様であり、様々な状況下で前腕屈筋群、手内在筋等に持続的な筋収縮が必要になる。そのため、筋緊張及び、筋収縮による代謝亢進による疲労物質蓄積が生じ前腕、手指の主訴件数、処置件数が多くなったと考える。また、腰背部に関しては、競技中のリーチ動作や身体重心を壁に近づけるため、腰背部の伸展が必要になってくる。今大会においても、競技が予選から決勝に進むにつれて壁の傾斜角度は増し、競技中の腰背部伸展は多く見られていた。そのため、主訴件数・処置件数が多くなっていたと考えられる。これらの部位に関しては、アンケート結果によってもその競技特性上負担がかかることが言えるのではないかと考える。
今大会における施行内容に関しては、上記内容に対するクーリンング、マッサージが多くなっていた。クーリングは一般的に筋温、皮膚温の低下による代謝抑制、疲労物質蓄積の防止を目的に行う。大会中競技後は選手終了通告と呼ばれる宣言が出るまで、選手は控え場所に待機していなければならなかった。そのため、競技直後にはクーリングを施行出来ない場面もあった。今後はその様な状況下においてどのように選手に処置を施していくかが検討課題である。
【理学療法学研究としての意義】
国民体育大会での山岳競技における、代表選手トレーナーとしての帯同は今回が初であった。今後、山岳競技はその競技特性上、局所への負担が大きく特に手指、前腕等に関しては、競技を継続していく上で重要な部位である。そのため、継続的な経過観察、障害特性の探索を行っていくことで選手のパフォーマンス向上及び、選手の競技継続年数の延長、競技中の障害防止に繋がると考える。

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© 2011 日本理学療法士協会
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