主催: (公社)日本理学療法士協会
【目的】
腹圧性尿失禁(stress urinary incontinence; SUI)は女性に多く,分娩・加齢・肥満によりリスクが高まることが知られている。SUIは中高齢女性の問題として取り上げられることが多いが,近年出産経験のない若年女性の12.8~29.3%に尿失禁がみられると報告されている。
SUIの危険因子として骨盤底筋の機能低下が知られており,骨盤底筋をトレーニングすることは軽度のSUIに有効とされている。従来,骨盤底筋の機能評価には,筋電図や膣圧計などが用いられてきたが,近年では膀胱後底面の超音波画像による骨盤底筋機能評価の有効性が示されている。しかし,若年女性および高齢女性を対象に,超音波画像による骨盤底筋の評価を行い,骨盤底筋機能と軽度のSUIとの関連を調べた研究はみられない。
本研究は,若年女性と高齢女性における骨盤底筋機能と軽度SUIとの関連性について明らかにすることを目的とした。
【方法】
若年女性33名(年齢21.3±1.2歳)と地域在住高齢者39名(年齢70.3±2.9歳)を対象とした。尿失禁の頻度や量,誘因に関する自覚的評価International Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form;ICIQ-SFにより,最近1年間の尿失禁を調査した。最近1年間に尿失禁の経験がある者で,尿失禁の誘因として「くしゃみやせきをしたとき」と回答した者はSUI,「トイレにたどり着く前にもれる」と回答した者は切迫性尿失禁,両方を選択した者は混合性尿失禁と定義した。また,SUIの中で尿失禁頻度が「1週間に1回,あるいはそれ以下」と回答した者を軽度SUI群と定義した。
骨盤底筋の収縮機能の評価には,超音波画像診断装置(GE Health care,コンベンションプローブ3MHz)を用いた。先行研究(Whittaker JL. 2007)に従い,臍から約10cm下方部で膀胱の底背側面が明瞭に映し出されるように水平面から60°傾斜させてプローブをあてた。被験者は測定の1時間前に,排尿後500ml飲水し,蓄尿した状態で測定を行った。測定肢位は,肩幅に足を開いた自然立位とし,「尿を我慢するときのように」と指示して骨盤底筋を随意収縮させた時の骨盤底挙上量を測定した。
統計学的分析として,若年女性における尿失禁なし群と軽度SUI群の骨盤底挙上量の比較には2標本t検定を用い,高齢女性における尿失禁なし群,軽度SUI群,切迫性尿失禁群の骨盤底挙上量の比較には多重比較法を用いて検討した。
【説明と同意】
被験者には本研究の説明を行い,書面にて同意を得た。なお,本研究は本学医学部医の倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
若年女性33名中,尿失禁がない者は23名(69.7 %),SUIは8名(24.2%),切迫性尿失禁は0名,混合性尿失禁は2名(6.1%)であった。高齢女性39名中,尿失禁がない者は18名(46.2%),SUIは13名(33.3%),切迫性尿失禁は7名(17.9%),混合性尿失禁は1名(2.6%)であった。また,SUIのうち,軽度SUIは若年女性で8名,高齢女性で11名であった。若年女性・高齢女性ともに各群間に年齢,身長,体重の有意な差はみられなかった。
若年女性における骨盤底挙上量は,軽度SUI群が3.3±5.6mm,尿失禁なし群が9.1±5.1mmであり,軽度SUI群は尿失禁なし群に比べて骨盤底挙上量が有意に小さかった(p<0.05)。一方,高齢女性における骨盤底挙上量は,尿失禁なし群が7.3±7.0mm,軽度SUI群が6.2±7.0mm,切迫尿失禁群が6.4±7.1mmであり,各群の間に骨盤底挙上量の有意差はみられなかった。
【考察】
女性に多い腹圧性尿失禁は高齢女性の33.3%,若年女性の24.4%に認められた。
骨盤底筋の収縮機能と腹圧性尿失禁の関係について,若年女性では軽度SUI群は尿失禁なし群に比べて骨盤底挙上量が有意に小さかったが,高齢女性では,腹圧性尿失禁の有無による骨盤底挙上量の差はみられなかった。このことから,若年女性における軽度の腹圧性尿失禁は骨盤底挙上量が関連していることが示唆された。一方,高齢女性における腹圧性尿失禁の一因として尿道過可動の病態が挙げられ,その場合は骨盤底挙上量が大きい値を示す可能性があるため,高齢女性の骨盤底筋機能は骨盤底挙上量だけで解釈することは困難であることが推測された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,若年女性の軽度腹圧性尿失禁には,骨盤底筋の収縮機能が関連していることが示され,腹圧性尿失禁に対する骨盤底筋トレーニングの重要性が示唆された。