抄録
【目的】
腰椎‐骨盤ユニットは、上半身から下肢へ又はその逆に荷重を伝達する機能をもち、体幹深部筋である腹横筋は、その重要な役割を果たしているといわれている。臨床において自動下肢伸展挙上(Active Straight Leg Raise以下ASLR)テストは、体幹深部筋である腹横筋の下肢-体幹への力の伝達機能(以下荷重伝達機能)の異常を検出する簡易的なテストとして腰痛患者に用いられている。しかし、臨床的診断として使用されているASLRテストと腹横筋の関係性を述べた報告は少ない。
本研究の目的は、超音波画像を用いて腹横筋筋厚を腹横筋活動としてとらえ、ASLRテストと腹横筋筋厚の関係性を検討することである。
【方法】
対象は成人男性28名(腰痛既往有り16名/既往無し12名)の中から、ASLRテストが片側陽性・片側陰性であった12名(腰痛既往有り9名/既往無し3名)〔平均年齢:27.6±4.4歳、身長:169.5±3.8cm、体重:62.6±4.3kg〕とした。腰痛既往者は、これまでの受診歴を問わず、腰背部に違和感・疼痛はあるが日常生活に支障ない者とした。また急性腰痛、神経症状のある者は除外した。ASLRテストの陽性については、ASLR時に疼痛・不快感があるが、上前腸骨棘レベルでの骨盤圧迫により疼痛・不快感が軽減したものとした。測定機器は、超音波診断装置(日立メディコ社製EUB7500)6-14MHzの可変式リニア型プローブを使用し、安静背臥位時とASLR時の挙上側腹横筋筋厚を測定した。超音波測定手順は、下肢挙上側の腹横筋筋厚を安静背臥位時、下肢伸展挙上時の順で呼気終末時の静止画像を両側各3回測定し、測定間に30秒の休憩をいれ実施した。呼吸は腹部を意識させない安静呼吸とした。またASLR時は腹部を意識させず膝完全伸展位のままベッドから踵を5cm挙上させたところで測定した。プローブ照射部は挙上側の腸骨稜(上前腸骨棘と腸骨稜最頂部とを結ぶ線上の中点)に垂直に照射し、画像上に腹横筋とランドマークの腸骨稜を描出した。抽出筋厚は、画像上のランドマークである腸骨稜の最突出部を起点として、25mm臍側の垂線と筋膜境界線の交点をとり、交点間を筋厚として0.1mm単位で計測した。本研究の超音波測定のICC(1,1)は、安静時:0.972、ASLR時:0.868であった。
データ解析は、ASLRテスト陽性側と陰性側の各々の安静時・ASLR時腹横筋筋厚、安静時とASLR時との腹横筋筋厚変化率を算出し、Wilcoxonの順位和検定とMann-Whitneyの検定をSPSSver12 for Winを使用して統計処理した。
【説明と同意】
当院倫理委員会の承認と被験者には研究の主旨と方法に関して説明を行い、同意を得た。
【結果】
ASLRテスト陰性側腹横筋筋厚は、安静時:3.5±1.3mm/挙上時:3.8±1.4mmで、挙上時の腹横筋筋厚は有意に増加した。ASLRテスト陽性側腹横筋筋厚は、安静時:3.5±0.8mm/挙上時:3.5±0.8mmで、有意差は認められなかった。また、腹横筋筋厚変化率はASLRテスト陽性側:1.3%、ASLRテスト陰性側:11.5%で、陰性側は有意に増加が認められた。
【考察】
腰椎-骨盤の運動コントロールの欠如は、慢性的な腰背部痛を呈する患者にみられ、この症状は主に体幹深部筋である腹横筋の収縮のコントロールと関係するといわれている。体幹深部筋群である腹横筋の下肢から体幹への荷重伝達機能を評価する簡易的テストとしてASLRテストが使用されている。
本研究では、ASLRテスト陽性側のASLR時腹横筋筋厚は陰性側より低値を示し、超音波画像を用いて腹横筋の荷重伝達機能の低下を定量的に示唆する結果となった。
本研究の結果から、臨床で行っている定性的なASLRテストは、腹横筋の荷重伝達機能評価として有用であると示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
臨床的診断として使用されているASLRテストは、本研究の超音波画像による腹横筋筋厚測定の定量的な結果から腹横筋機能をみる有用な検査である。また、腰痛患者に対する腹横筋機能の評価や治療の効果測定の一助として貢献することができると考える。