理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF2-052
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口述発表(特別・フリーセッション)
人工膝関節全置換術後の膝関節屈曲可動域に関する考察
内外側の大腿骨後顆の厚さの影響と術後理学療法について
諸澄 孝宜石井 義則野口 英雄武田 光宏佐藤 潤香桜井 徹也鳥谷部 真一
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抄録

【目的】
人工関節全置換術(TKA)術後の膝関節可動域(ROM)について,Bellemansら(2002)は大腿骨後顆の厚さ(Posterior Condylar Offset;PCO)がCR型TKA術後の屈曲ROMと相関関係を示すと報告したが,その後の追試により意見の分かれるところである.また,石井(2010)はX線画像におけるPCOの変化は内外側顆のいずれの変化も反映しないことを報告した.そこで,本研究ではTKA術後,内外側PCOと屈曲ROMの変化の関係を検討し,インプラントの特性を考慮した術後理学療法について考察した.
【方法】
平成15年4月から平成22年7月までの評価期間の中で,当院にて術前に変形性膝関節症と診断されてTKAを施行し,術後12カ月以上の経過観察が可能であった症例98名106膝関節(手術時平均年齢72歳(53-83歳),男性18名,女性80名)を対象とした.手術は全例Depuy社のMobile-Bearing型LCS人工膝関節システムを使用し,術後は当院のプロトコールに従って翌日より全荷重を許可し,術後1週は自動関節可動域運動(以下ROM-ex),抜拘後から麻酔下術中可動域を目標に他動 ROM-exを行った.術後早期からROM-exと並行して,腫脹や膝蓋骨可動性,術創部・膝軟部組織の柔軟性に対して積極的なアプローチを行った.評価は術前後に屈曲ROMを計測し,3次元下肢アライメント解析システム(Knee-CAS,佐藤ら,2004)を用いて内外側PCOをそれぞれ計測した.結果より,各PCOの変化量と術後屈曲可動域についてはスピアマンの順位相関係数を用いた.また,内外側PCOの変化パターンに応じて4群に群分けし,各群と術後屈曲可動域の増加率についてはχ2検定,術後屈曲可動域の増加量についてはクラスカルワーリス検定を用いた.統計分析にはSPSS17.0を使用して統計的有意水準は5%とした.
【説明と同意】
本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得て,全ての対象者から同意を得た.
【結果】
膝関節屈曲ROMは術前118±17.0°,術中115±8°,術後112±15°で,術前後差は-6±16°であった.内側PCOは術前26.4±2.7mm,術後26.2±3.9mmで,術前後差は-0.2±3.6mm(増大54例,減少52例)であった.外側PCOは術前25.1±2.4mm,術後28.5±3.8mmで術前後差は3.4±3.8mm(増大89例,減少17例)であった.内側・外側PCOの変化量と術後屈曲角度に相関は認められなかった(内側PCO変化vs.術後屈曲角度; R=-0.038,外側PCO vs.術後屈曲角度;R=-0.090).また,4群間でPCO変化パターンと術後屈曲角度変化率(p=0.443),術後屈曲角度変化量(p=0.593)では,ともに有意差は認められなかった.
【考察】
TKA術後ROMに影響する因子として,術前ROMや術後疼痛,手術関連因子(後十字靭帯切離の有無)などが報告されている.しかし,人工関節の運動規定因子であるインプラントの形状やデザイン,軟部組織などが考慮された術後理学療法の報告は少ない.BellemansらはTKA術後の大腿骨後方インピンジメントを予防し屈曲ROMを増大するためにPCOの再獲得が必要であると述べている.しかし,本研究ではPCOの術前後変化は内外側ともに術後膝関節屈曲ROMに影響を及ぼさなかった.これは術後理学療法において腫脹や疼痛に配慮しながら,筋や靭帯などの軟部組織に対して早期から十分なアプローチしたことでLCS 人工関節システムの特性(mobile bearing機構)が活かされたと考えられる.つまり,LCS人工関節システムにおいて,インプラントのデザインコンセプトを考慮した上で,その阻害因子になり得る軟部組織柔軟性に対して十分な術後理学療法が展開されるならば,屈曲ROMに関してPCOの変化を考慮する必要はないことが示唆された.
【理学療法学研究としての意義】
本研究ではLCS人工関節システムにおけるインプラントの形状(PCO)について検討したが,デザインの阻害因子に対して十分にアプローチされる必要性があり,術後理学療法の重要性が再確認された.また,インプラントや術式まで考慮された術後理学療法が展開されるべきであるという知見は,今後の理学療法研究にとって有意義であると考える.

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© 2011 日本理学療法士協会
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