理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF2-053
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口述発表(特別・フリーセッション)
大腿四頭筋の走行が膝関節に与える影響(第2報)
人工膝関節全置換術後の膝伸展筋力の回復過程との関連
田邊 聡史山田 千央竹岡 亨土肥 正樹稲岡 秀陽
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抄録

【目的】変形性膝関節症(以下膝OA)は,膝関節の軟骨の変性や骨変形に伴い,疼痛等の様々な機能障害を呈することが知られている.特に,大腿四頭筋機能不全は,膝OAの特徴的な所見であり,その原因として筋萎縮以外に,脛骨大腿関節や膝蓋大腿関節の変形,大腿四頭筋の走行の変化が挙げられる.一般的に,膝OAの客観的評価には脛骨大腿角(以下FTA)やstage分類などの骨指標が頻繁に利用される.しかし,筋アライメントの異常に関しては,客観的な評価指標に乏しく,骨アライメントの変化に伴って生じると考えられる筋の走行の変化に関する報告はほとんどない.また,筋の走行が人工膝関節全置換術(以下TKA)後の筋力の回復過程に及ぼす影響も不明である.我々は先行研究にて、FTAが増大する程、内側広筋斜頭(以下VMO)の進入角度が小さくなることを報告した.そこで、本研究では、大腿直筋(以下RF)・内側広筋斜頭・外側広筋(以下VL)・膝蓋腱(以下PT)の走行とTKA後の筋力が回復過程に及ぼす影響について検討することを目的とした.
【方法】対象は,当院にてTKAを施行した膝OA患者15名(平均年齢73±5.3歳)である.対象者の大腿四頭筋の走行を調査するために,コンピュータ断層撮影画像(以下CT画像)を用いて,対象者の前額面上でのRF・VMO・VL・PTの走行を同定し,大腿骨に対する各筋の進入角度を測定した.また,μ-tus(アニマ社製)を用いて,端座位(股関節・膝関節屈曲90°)での膝伸展筋力を術前,退院時に測定した.術前の筋力をもとに退院時の筋力の回復率を算出し,対象者を100%以上の群(以下A群)と未満の群(以下B群)の2群に分類した.統計解析には,マンホイットニーのU検定を用いて.2群間の筋のアライメントの差について検討を行った.有意水準は5%未満とした.
【説明と同意】対象者には,研究の趣旨について十分な説明を行い,研究参加の同意を得た.
【結果】測定の結果,A群の各筋の進入角度はRF が8.7 ±6.3°,VMO が34.5±4.8°,VL が23.7 ±6.2°,PT が8.0±7.3°であり筋力の回復率は173.4±62.4%であった.B群の各筋の進入角度はRF が6.7 ±3.7°,VMO が45.0±4.9°,VL が26.7 ±10.8°,PT が10.1±8.5°であり筋力の回復率は,74.3±20.2%であった.差の検定の結果,VMOの進入角のみ有意差を認め(p<0.01),A群の内側広筋の進入角がB群と比較して大腿骨に対して鋭角であった.
【考察】A群は,術前のVMOの進入角度が大腿骨に対してより鋭角になることが示唆された.これは,TKA施行により骨アライメントが矯正されたことで,筋の走行角度にも変化をもたらした可能性がある.VMOの進入角度が鋭角になると,膝蓋骨の内側への牽引力が低下し,側方への牽引力にアンバランスが生じる.その結果,膝関節伸展時に筋張力が得られにくい状態になっていると考えられる.TKAを施行することで,骨変形の矯正だけでなく筋のアライメントも修正され,大腿四頭筋が本来の筋力を発揮しやすい状態になったと考えられる.本研究の限界は,横断研究であるために,筋の進入角度がOA変化に伴うものなのか不明な点であり,筋の横断面積の測定を行っていないことや,術後の筋の進入角度に関して測定が行えていないことで回復が筋のアライメントと直接関係しているか明らかにできない点である.また,筋力測定は端座位での膝伸展筋の等尺性筋力を指標にしたため,歩行や立ち上がりなどの動作時の発揮筋力との直接的な関連性については検討することができず,今後の課題であると考える.
【理学療法学研究としての意義】本研究では,VMOの進入角度によりTKA術後の膝関節伸展筋力の回復過程に影響を及ぼすことが示唆された.この結果は,膝OA患者に対する評価を行う上で,骨変形だけでなく,筋のアライメント変化に関しても検討する必要があるということを示しており,今後,膝OAに対する保存および術後理学療法の治療プログラムを構築する上で非常に有用な情報であると考えられる.

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© 2011 日本理学療法士協会
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