抄録
【目的】足関節捻挫は病歴診断の病名である。病歴に加え視診・触診・運動診による身体所見によって診断をつけている。その重症度評価は腫脹・疼痛・荷重歩行の困難さなどで判断してきたが医師や患者の主観であり正確な基準はない。捻挫の治癒の程度を痛みから判断してきた。痛みだけで判断し治療内容の決定を行うのは靭帯の治癒の視点からは危険なことである。単純X線写真は整形外科分野の画像診断で第一選択として用いられるが、重なった部分の読影は困難である。ストレスX線撮影も断裂しきっていない靭帯も完全断裂に導く危険性がある。当院では、2009年8月26日から日常診療に運動器超音波検査(以下エコー)を取り入れている。エコーは単純X線写真やCT、MRIとは異なり動的観察が可能である。エコー視下で愛護的なストレステストを行うことで靭帯の損傷程度や剥離骨の不安定性の程度を確認することが可能である。エコーの所見をもとに病態生理学的に足関節捻挫の診断・治療決定を試みている。第19回石川県理学療法学術大会「運動器超音波検査で靭帯の治癒過程を観察できた右足関節前距腓靭帯損傷の一症例」、第26回東海北陸理学療法学術大会で「運動器超音波検査での病理学的所見に依拠した足関節捻挫の診断と治療方針」を発表した。足関節捻挫の病態は様々で靭帯断裂や骨軟骨損傷を含む。皆川は単純X線写真では4割も骨折を見逃すと述べている。当院でも単純X線写真では認められなかったがエコーでは骨折を認めた症例を数多く経験している。今回、足関節捻挫と診断され、単純X線写真では異常を認めなかったが運動器超音波検査で腓骨遠位端骨軟骨剥離骨折を認めた症例を経験したので報告する。
【方法】対象者には問診・視診・触診・単純X線写真・エコーを行った。エコー機器はGE Healthcare LOGIQ P6を使用した。エコーで骨折・骨端線損傷・靭帯損傷の有無を確認した。
エコー視下で医師による愛護的な内反ストレステスト(以下ストレステスト)を実施した。その結果を踏まえて治療方針の決定を行った。1週毎にエコーで経過観察を行い、固定方法の選択を行った。
【説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に基づき本研究の趣旨を説明し、同意を得た。
【結果】6歳女児、転倒時に右足関節を内反し受傷した。受傷翌日、歩行時痛を主訴として来院した。歩行は右立脚中期を乗り越えていた。単純X線写真で骨に異常は認めなかった。エコーで右腓骨遠位端部骨軟骨剥離骨折を認めた。右腓骨遠位端周囲には低エコー像と血流シグナルを認めた。エコー視下のストレステストで骨軟骨片が腓骨遠位端から離開した。非伸縮性テープ固定後、内反底屈防止装具を作成し装着した。初診日より7日後、エコーで血流シグナルを認めた。23日後、ストレステストで骨軟骨片は離開せず、癒合状態であることを確認した。血流シグナルを認めなかった。装具固定を終了した。非伸縮性テープとサポーター包帯で固定をした。37日後、距骨の後方滑りは滑らかであった。症状・所見はなく治療を終了した。
【考察】皆川は13歳以下の前距腓靭帯断裂部は65%が近位であり、小学生では靭帯実質の断裂はまれで、ほとんどが腓骨側からの裂離骨折像を示すと述べている。当院でも足関節捻挫症例に対しエコーを行ったところ骨軟骨剥離骨折を認めた。足関節捻挫を病歴とする疾患の治療は患者の訴えに関わらず適切な治療選択が必要である。楢原らは新鮮足関節外側側副靭帯損傷に対する下肢ギプス包帯による保存的治療が有用であると述べている。当院でも損傷程度によって固定方法の選択を行っている。
【理学療法学研究としての意義】単純X線写真では映らない骨折もエコーでは描出することが可能であった。エコーで正確に評価し、病態生理を把握することで治療方針の決定や予後予測に役立つ補助診断材料となった。治癒過程を追いながら治療方法を選択した。適切な処置を行えば骨軟骨剥離骨折が治癒することがわかった。