理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PF2-038
会議情報

ポスター発表(特別・フレッシュセッション)
妊娠に伴い発生する腰背部から骨盤周囲の疼痛の実態調査
梶原 由布永井 宏達米盛 由以子田仲 陽子疋田 雄紀高村 ますみ上村 一貴森 周平田中 武一山田 実青山 朋樹菅沼 信彦
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キーワード: 妊婦, 腰痛, アンケート
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抄録
【目的】
本邦では妊娠期に68%の妊婦が腰痛を発症し、発症後45%が産褥期にも痛みを訴え、出産後3年が経過しても17%の経産婦が痛みを持続しているとの報告があり、ADL、QOLを損なう大きな原因となっている。しかし妊娠に伴う腰痛はマイナーコンプリケーションとして取り扱われており、予防法、治療法ともに確立されておらず、実際のアプローチもあまり行われていない。本研究では、妊娠に伴い発生する腰背部から骨盤周囲の疼痛の発症時期及び程度の傾向を探ると共に、生活様式や生活習慣との関連を探り、予防法及び治療法の確立のための知見を得ることを目的とする。
【方法】
本研究では妊娠までに腰痛の既往のない妊娠後期の妊婦56名(32.2±4.8歳)および経産婦24名(33.9±4.3歳)に対し、無記名、選択回答形式の質問用紙にて実施した。質問項目は、(1)プロフィール、(2)妊娠前の就業形態、運動習慣及び腰痛関連事項、(3)妊娠中の腰部及び骨盤周囲の疼痛の有無及び程度とその発症時期、(4)妊娠中の生活習慣等について計36項目に調査を行った。疼痛の程度を評価するスケールとしてはNRSを使用し10段階で評価した。妊娠に伴い発生する疼痛の有無の2群と各項目についてカイ二乗検定を行い、有意水準は5%とした。
【説明と同意】
対象者全てに口頭及び紙面にて本研究対する説明を行い、書面による同意を得た。
【結果】
アンケートの結果、妊娠に伴い、疼痛が生じた人は全体の72%であり、妊娠時期別に見ると有痛率は前期では25%、中期では49%、後期では71%であった。疼痛発生部位は腰椎部、恥骨周辺、股関節、背部、仙腸関節、臀部、鼡径部の順に多かった。各部位について前期、中期、後期の3群でカイ二乗検定を行った結果、腰椎部及び恥骨周辺については妊娠経過により有意に有痛率の増加が認められた(ともにp<0.001)が、他の部位については妊娠時期による有痛率の変化は認められなかった。生活習慣との関連では柔らかいベッドで寝ている人で腰痛を有する人の割合は前期19%、中期41%、後期58%であり、固いベッドで寝ている人で腰痛を有する人の割合は前期33%、中期58%、後期79%と全期を通して固いベッドで寝ている人の方が高い割合で腰痛を持つ傾向が示されたが、有意差は認められなかった(前期:p=0.208、中期:p=0.156、後期:p=0.057)。また、就寝時の体位(仰臥位、側臥位、不定の3群)、運動習慣の有無、就業の有無に関しても、有痛率において有意な差は認められなかった。今回の妊娠に対する不安の程度は(1)かなりある9%、(2)まあまあある19%、(3)少しある42%、(4)ほとんどない22%、(5)全くない5%であり、不安あり群(1+2+3)となし群(4+5)の2群と腰痛の有無で比較したところ、不安あり群で有意に腰痛の発症率が高かった(p=0.034)。
【考察】
本アンケート調査から、全体の25%の人は妊娠前期より腰背部から骨盤周辺に疼痛が発生しているという結果が得られた。股関節、背部、仙腸関節、臀部、鼡径部では時間の経過による有痛率の増加は認められなかったことから、これらの部位では胎児の成長によるアライメントの変化や体重増加による影響よりも、妊娠初期から分泌されるホルモンによる筋・靭帯の弛緩が影響している可能性が考えられた。一方、腰椎部、恥骨結合部は妊娠経過と共に疼痛発生率が漸増することからアライメントの変化や体重増加も要因に加担していると考えられた。本調査においては生活習慣との関連はあまり明らかではないが、固いベッドの方が腰痛を有する人が多い傾向にあったことから、ベッドなどの指導は腰痛発症を予防できる可能性がある。また不安の有無により疼痛の発生率に有意な差が見られたことから、妊娠期における腰痛発生には心理変化が影響を与えていることが想定され、心理面へのアプローチも重要な因子である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
従来の妊娠による腰痛の発症原因はアライメント変化や体重増加に焦点があてられ、主にこれらの変化の著しい後期に予防介入の可能性が検討されていた。今回の検証から前期にも25%の妊婦が疼痛を自覚し、それが漸増する結果を得ており、早期介入の可能性、単にアライメント変化だけでないアプローチの必要性が示唆された。今後妊婦における腰痛発症を予防するうえで、今回得られた知見は重要な意義を有すると考える。
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© 2011 日本理学療法士協会
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