抄録
【目的】複合的理学療法がリンパ浮腫に対する保存的な治療方法として有効であるとの報告が近年散見される。当院でも2003年にリンパ浮腫外来を開設し、複合的理学療法を開始、2006年より集中的に施術し浮腫を軽減させる集中治療期を理学療法士が、患者さん自身のセルフケアが中心となる維持期をリンパ浮腫外来が役割を分けて実施している。2008年理学療法学術大会において集中治療期の効果(浮腫変化率)はリンパ浮腫外来の維持期の効果とあわせて1年後も有意に継続していると報告したが、更にそれ以降の効果については検討はなされていなかった。そこで、今回2年先まで期間を延長し、更にセルフケアの状況を加味して検討を加えた。
【方法】対象者は片側性の下肢リンパ浮腫患者36名(右16肢、左20肢)、平均年齢63.6±11.1歳(mean±SD)、浮腫発症から治療開始までの期間は76.5±102.6ヶ月、リンパ浮腫の進行期(国際リンパ学会)は2期33名、3期3名であった。原疾患は原発性2名、婦人科癌術後に伴う続発性が34名であった。集中治療としてスキンケア、医療徒手リンパドレナージ、弾性包帯による圧迫療法、運動療法を外来通院で行った。集中治療の日数は21.3±7.1日、治療回数は11.5回であった。治療効果の判定は体積近似値の患健側差から求められる浮腫体積を用いて治療前後、治療1年後、治療2年後の変化を検討した。また治療2年後に治療後よりもリバウンドした群(リバウンド群)と維持できた群(維持群)とで2群に分類し、1集中治療での浮腫変化率(%)、2集中治療後のリンパ浮腫外来受診数、3治療後2年および集中治療期間での体重減退量、4治療後2年間のセルフ医療徒手リンパドレナージ(SMLD)の頻度、5治療後2年間の圧迫方法(弾性着衣、弾性着衣+バンテージ)の有無と頻度を比較した。浮腫変化率は(治療前浮腫体積-治療後浮腫体積)/治療前浮腫体積にて算出し、治療前後での改善度を求めた。セルフケアの状況はリンパ浮腫外来での受診時に聴取した。統計学的処理はpaired t-testおよびUnpaired t-testを用い、有意水準を5%未満とした(p<0.05)。
【説明と同意】全例にヘルシンキ条約に基づいたインフォームド・コンセントを実施し、書面上での同意を得ている。
【結果】浮腫体積(cm3)の推移は治療前2081.3±229.0(mean±SE)→治療後1146.3±145.5(p<0.001)、治療後→治療1年後1396.4±211.5(N.S.)、治療1年後→治療2年後1742.6±308.4(N.S.)、治療後→治療2年後(p<0.05)で治療前後では有意に浮腫は減退するが、治療2年後は有意に治療後よりもリバウンドすることが示された。リバウンド群と維持群との比較として、(1)浮腫変化率(%)はリバウンド群44.4±9.7、47.9±9.8で有意差はみられなかった。(2)リンパ浮腫外来の受診数は両群ともに有意差なし、(3)治療後2年での体重減退量に有意差はみられなかったが、集中治療期の体重減退量(kg)はリバウンド群0.8±0.3、維持群2.1±0.4(p<0.05)と集中治療中に減量できた人ほど維持できることが示された。(2)SMLDの頻度(回/週)はリバウンド群4.4±0.8、維持群6.6±0.4(p<0.05)で有意に維持群の回数が多かった。(3)圧迫方法は全例弾性着衣を使用していたが、弾性着衣+バンテージを組み合わせて使用していたのは15/21例(71.4%)であった。バンテージの頻度(回/週)はリバウンド群1.8±0.7、維持群4.5±1.2、(p<0.05)で有意に維持群の回数が多かった。
【考察】集中治療後2年では、治療後よりもリバウンドすることが示され、2年毎に集中治療を組み入れ、浮腫を減退する期間を設ける必要があると思われる。集中治療後のセルフケアは、概ね毎日のSMLDを行うこと、またバンテージも定期的に組み入れる必要が示唆され、今後の維持期において推奨していくことが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】今回、維持期で重要視すべき要因として、SMLDとバンテージの頻度が挙げられた。今後の維持期におけるセルフケア方法の一助になり得たと思われる。