理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OI1-033
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口述発表(一般)
長期LVAS補助から心移植に至った4症例の理学療法の経験
花房 祐輔高木 敏之櫻田 弘治藤野 雄次樋田 あゆみ外山 洋平大塚 由華利飯塚 有希篠崎 かおり内田 龍制牧田 茂
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キーワード: LVAS, 心移植, 理学療法
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抄録
【目的】自己心機能の改善が見込めない末期的重症心不全患者において,心臓移植が最終的な外科的治療となるが,ドナーが現れ心移植を施行されるまでの期間は決して短いものではない。そのため,待機期間のつなぎとして,左室補助人工心臓(LVAS)装着術を施行され,長期入院を強いられる患者が多く存在する。今回,長期間にわたるLVAS装着から心移植に成功し,移植後に至るまで理学療法(PT)を実施した4症例を経験したので,PTの経過について運動耐容能の推移を踏まえて報告する。
【方法】
症例1)20代女性,拡張型心筋症。末期的重症心不全のためLVAS装着され心移植待機となった。待機期間中自己心は心室細動の状態であり,LVASによる循環補助も十分に得られなかったことから,様々なPT介入にも関わらず,日常生活動作(ADL)は制限され,主としてベッド上での生活であった。待機期間1029日目に心移植が施行され,移植後75日目に退院となった。
症例2)20代女性,拡張型心筋症。1例目と同様にLVASが装着された。待機期間中,PT介入にて室内ADLは自立したものの,息切れ感を主訴とする運動制限を呈し,運動耐容能の顕著な改善は得られなかった。待機期間518日目に心移植が施行され,途中拒絶反応に対する加療が必要となったが,移植後95日目に退院となった。
症例3)50代女,拡張型心筋症。LVAS装着後の待機期間中はPTプログラム順調に進行され,運動耐容能の改善がみられた。待機期間658日目に心移植施行され,移植後47日目に退院となった。
症例4)30代男性,拡張型心筋症。LVAS装着後,待機期間中は症例3と同様にPTプログラム順調に進行され,待機期間244日目に心移植施行され,現在も当院にて自転車エルゴメータによるトレーニング継続中である。
全症例ともに,LVAS装着術後PTの介入は,当院にて作成したPTプログラムに準じて進行した。さらに,500m連続歩行が可能となった後,1週間安定してプログラム遂行可能であった場合に心肺運動負荷試験(CPX)を実施し,運動耐容能評価,有酸素トレーニングの負荷決定の参考とした。CPXには,自転車エルゴメータによる症候限界性のランプ負荷(10W/min)を行い,呼気ガス分析にはAE-300S(ミナト医科学社製)を用いてbreath-by-breathによる測定を行うことで,最高酸素摂取量(PeakVO2)を測定し,運動耐容能の指標とした。また,心移植後は,当院における心移植後PTプログラムに準じて進行し,15分間連続歩行が可能となった後,ステロイド内服量漸減に伴い,CPXを実施し運動耐容能の評価を行った。
【説明と同意】本研究にあたり,各症例には書面にてデータ使用,個人情報保護に関して説明を行い,同意を得た。
【結果】移植待機期間中,症例1ではLVAS装着後245日目のPeakVO2は6.9 ml/kg/minであったが,心移植4ヶ月後には14.6 ml/kg/minまで改善した。症例2ではLVAS装着後62日目のPeakVO2は8.4 ml/kg/minで,その後著明な改善はなかったが,移植後約1ヶ月は11.2 ml/kg/min,退院前は19.0 ml/kg/minと顕著な改善を示した。症例3では,LVAS装着後39日目のPeakVO2は10.4 ml/kg/minで,移植前には13.5 ml/kg/minまで改善が認められた。心移植後,退院前には14.2 ml/kg/minまで改善がみられた。症例4では,LVAS装着後21日目のPeakVO2は10.7 ml/kg/minであったが,移植後28日目には13.3 ml/kg/minに改善が認められた。
【考察】今回の症例1,症例2はLVAS装着中にはPT介入にも関わらず,運動耐容能の改善は得れなかったが,運動耐容能の低下は防止できた。その原因として、右心機能の破綻によりポンプ流量が十分維持できなかったことが考えられた。しかし,心移植後には積極的なPT実施により,顕著な運動耐容能の改善が見られ,ADLも自立し独歩にて退院することができた。症例3,症例4では,LVAS待機期間中にも積極的な運動療法を実施することができ、運動耐容能の改善を図ることができた。そのため,心移植後も早期より室内ADLを獲得し,心移植後のPTプログラム進行が円滑に進み,運動耐容能の維持・向上が可能であったと考えられる。今回PT介入を行った4症例は,LVAS装着下での移植待機中は各々異なる経過をたどったが,どの症例についても,各状況に応じたPTの対応を行い,LVAS装着中に可能な限りコンディショニングの維持を図ったことが,心移植後の効果的なPT介入を実施できたと考えられた。
【理学療法の意義】本邦におけるLVAS装着中,もしくは心臓移植後のPTに関する報告は数少ない。今後臓器移植法案が改定されたことでこれまでよりも多くの心臓移植症例の増加が見込める中で,本研究はPT進行における参考の一つとなると考えられる。
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© 2011 日本理学療法士協会
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