理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-353
会議情報

ポスター発表(一般)
当院にて理学療法を実施している肺がん患者の現状
永田 幸生泊 健太矢作 里歌亀井 ゆかり中尾 友美
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】
2010年度診療報酬改定に伴い「がんのリハビリテーション」が診療報酬として確立された。がんの治療では、外科、放射線、化学療法が実施される。また、全身状態の悪化した患者には、緩和医療が中心となる。リハビリテーション(以下リハ)は、治療過程において受けた身体的・心理的なダメージに対して、障害の軽減、運動機能や日常生活活動の低下・予防や改善、介護予防を目的として、実施する機会は増加している。当院でも呼吸器内科医師より、肺がん患者に対し理学療法(以下PT)の処方がある。今回、当院にてPTを実施している肺がん患者の現状を報告する。
【方法】
対象は、2007年4月から2010年3月までに入院し、呼吸器内科よりPTの処方があった肺がん患者中、病期分類が確認できた43例を対象とした。平均年齢は70.5±1.2歳であった。男性37例、女性6例であった。後方視的に調査し、項目は、病期分類、主科の治療内容、転移、症状、栄養状態として入院時Body Mass Index(以下BMI)値・入院時血清アルブミン(以下Alb)値、入院時動作能力、退院時動作能力、転帰とした。動作能力は、ECOG-Performance status(以下PS)を使用した。今回の検討ではPS0群、PS1・2・3群、PS4群と死亡群の4群にわけた。
【説明と同意】
当院の個人情報保護方針に基づき実施した。
【結果】
病期分類は、3期22例(51%)4期21例(49%)であった。主科の治療は、化学療法21例(49%)、対症療法を主体とするBest supportive care 22例(51%)であった。転移は28例(65%)で認められた。症状(重複あり)は呼吸困難23例(53%)、食欲低下14例(33%)、全身倦怠感12例(28%)、疼痛6例(14%)、悪心・嘔吐5例(12%)、発熱4例(9%)、無症状6例(14%)であった。入院時栄養状態は、BMI18.5未満16例(37%)、18.5~25.0、25例(58%)、25.1以上2例(5%)、入院時Alb4.0未満39例(91%)、4.0以上4例(9%)であった。入院時動作能力としてPS0が0例(0%)、1・2・3が31例(72%)、4が12例(28%)、死亡0例(0%)であった。退院時動作能力は、PS0が0例(0%)、1・2・3が19例(44%)、4が10例(23%)、死亡が14例(33%)であった。死亡例のうち、10例ががんの進行、3例が肺炎、1例が副作用によるものであった。転帰は自宅15例(35%)、転院14例(33%)、死亡14例(32%)であった。
【考察】
PT処方のある肺がん患者は、PS1・2・3のものが72%、PS4は28%であり、対象患者全例が肺がんの病期分類stage3以上で回復・維持的リハを中心に開始することが多かった。またBMI18.5未満は約40%で、Alb4.0未満の患者は91%を占めており、栄養状態が悪化していた。その中で、49%と約半数で化学療法を実施しており、副作用症状を生じている患者を認めた。退院時にはPS4と死亡例が56%を占め、常に介助を必要とする患者や、死亡する患者の割合が増加していた。また、死亡例のうち直接死因が、がんの進行によるものが10例となっていた。肺がんの病期分類stage3~4の患者は、5年生存率30~19%程度である。化学療法中には、副作用による安静臥床や、がんの進行により、歩行や起居動作の能力が低下し、活動性が低下する。また、がん患者において低栄養状態は、合併症のリスクを増大させ、体重減少は予後決定因子の一つになる。
当院では、病期が進行し、栄養状態の低下を招いている患者が多くいた。またその中で化学療法による副作用の影響を受けている患者もおり、活動性が低下するリスクの高い患者が多いことが分かった。がんのリハは、予防的リハ、回復的リハ、維持的リハ、緩和的リハの大きく4つの段階に分けることができる。当院では、開始時には機能障害、能力障害が主体となる患者が多いが、その経過の中で病期としては末期を迎える患者もいた。以上のことから、当院においては、病状の進行や治療の副作用により全身状態の悪化する患者が多数おり、末期の病態の中で理学療法を実施することも多いことがわかった。よって、PT施行中でも、動作能力向上が困難なことが多く、回復・維持的リハだけでなく、緩和的リハとしての関わり方も重要になると思われ、患者個々の病態に応じたPTが重要となると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
肺がん患者の背景と転帰を調査し、その特徴を明確化し、傾向を知り今後の治療プログラム再考・立案の一助となる。
著者関連情報
© 2011 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top