理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-385
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ポスター発表(一般)
他動的足関節底背屈運動が動脈伸展性に与える即時効果の検討
高木 大輔西田 裕介
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抄録
【目的】「2007年度動脈硬化性疾患予防ガイドライン」では,動脈硬化に対して最大酸素摂取量の50%,1日30分以上の運動が推奨されている.しかし臨床の現場では,遂行困難な場合も少なくない.さらに実施可能であっても,心肺系機能が低下した虚弱高齢者などでは,リスクが高くなる.個々に対してより最適,かつ安全な運動処方を可能にするためには,動脈伸展性を改善する運動強度の幅,つまり低強度負荷による動脈伸展性への影響を明らかにする必要がある.現在,運動による動脈伸展性の改善要因として,血流増加による力学的ストレス(shear stress)の増大や乳酸の影響などがある.また血管拡張は,shear stressの増大に伴い増加すると報告されている.そのため,低強度負荷,他動運動では血流増加率が不十分で動脈伸展性への影響が少ない可能性がある.実際に他動的膝関節屈伸運動による心拍出量などの増減について,現状では,一定の見解が得られていない.その中で下腿三頭筋のmuscle pumpingは,短時間,他動運動でも静脈還流量を増加,結果一回拍出量を増大させる.また大腿部の筋ポンプ作用に比べ,より筋内圧を高め,効率的に静脈還流量を増加,さらに筋収縮様式や頻度の変化で,血流量増加の効率を増すことができるとされている.以上を踏まえ,本研究では,短時間の他動的足関節底背屈運動において動脈伸展性を改善できるという仮説を立案し検証した.
【方法】 対象は健常成人男性16名(23±2歳)とした.方法は,背臥位にて,60回/分の収縮頻度にて5分間,検者が徒手にて他動的足関節底背屈運動(運動脚は左足関節)を実施した.比較検討のため,同方法による自動運動(10%MVC)も実施した.動脈伸展性・血圧・心拍数は,Form PWV/ABIによる上腕-足首間脈波伝播速度(baPWV)を安静時および運動終了直後より20分間測定した.局所血流量は,近赤外線分光法による左腓腹筋内側頭の総ヘモグロビン量(total-Hb)を測定した.静脈還流量は脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-Hb)を測定した.データの比較には,運動前・中の5分間の平均値を用いて検討した.乳酸値は,運動前後で比較した.統計処理は,baPWV・血圧・心拍数に,反復測定による分散分析,多重比較検定(tukey法)を用い,total-Hb,deoxy-Hb,乳酸値の運動中・後の変化には,対応のあるt検定を用いた.有意確率は,危険率5%未満とした.
【説明と同意】対象者には口頭,および紙面にて研究内容を十分説明し,研究参加の同意を得た.また本研究は,聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認のもと実施した.
【結果】他動運動によるbaPWV(運動肢)の変化は,安静時1175.8±98.9, 運動直後1133.2±103.6, 運動後3分1129.1±101.3, 6分1121.1±101.4, 9分1129.1±95.9, 12分1160.3±89.8,15分1152.8±77, 20分1159.3±90.5cm/sであった.安静時と比較し,運動後3分,6分,9分で有意に低値を示した(p<0.05).自動運動では,安静時1137±116.4, 運動直後1126.6±97.7,運動後3分1130.1±92.2, 6分1138.5±95.5, 9分1149±110.3, 12分1155.6±105.4,15分1152.1±98,20分1160±96.2cm/sであった.運動後初期に改善傾向は示したが,統計学上有意差は認めなかった.total-Hb,deoxy-Hbは,他動・自動運動ともに増加傾向を示したが,有意差は認めなかった.乳酸値は,自動運動で,安静時1.1±0.2,運動後1.3±0.2mmol/lと変化し,運動後有意に高値を示した(p<0.05).平均血圧,心拍数は,運動前後で有意な変化は見られなかった.
【考察】今回,他動運動で動脈伸展性が改善した要因として,乳酸値に有意な変化はなく,total-Hbが増加傾向を示したため,血流増加によるshear stress増大に起因したのではないかと考える.deoxy-Hbの減少は,静脈還流量の増加を示すとされるが,本研究では増加した.他動運動でも筋内代謝は変化するとの報告があるため,代謝の影響を受けたと思われる.自動運動で改善しなかった要因として,乳酸値が運動後有意に増加した.現在運動による代謝産物は,筋代謝受容器反射を介しての昇圧反応や血管拡張など様々な作用が報告されている.本研究では,筋代謝受容器反射による昇圧反応の影響を受け,その結果,動脈伸展性の改善効果が相殺された可能性が考えられる.
【理学療法学研究としての意義】本研究により,動脈伸展性の改善が可能な運動強度の幅を確認することができ,今後より個々に適した負荷強度で運動処方が可能になると考える.また心肺系機能が低下した虚弱高齢者などに対して,低強度からの負荷設定,つまり低リスクでの運動処方ができると考える.

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© 2011 日本理学療法士協会
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