抄録
【目的】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者を対象に呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)の長期効果をBMIによる低体重群と非低体重群で比較検討する.
【方法】
対象は外来での呼吸リハを施行したCOPD患者64例である.患者背景は平均年齢68.5±7.5歳, 男性58例,女性6例,1秒量(FEV1)は平均1.01±0.39L,予測値に対する1秒量(FEV1 pred)は平均44.8±16.1%であった.
呼吸リハは週2回の頻度で10週間は集中的に実施し,以降は週1回の頻度で継続した.内容は高負荷強度の持久力トレーニング,上下肢筋力トレーニング,Thresholdによる吸気筋トレーニングからなる運動療法を主軸とした.
評価はBMI,6分間歩行試験による歩行距離(6MWD),漸増運動負荷試験より得られた80%peak watt負荷による定常運動負荷試験の運動持続時間(endurance time;ET),呼吸困難はBaseline dyspnea index(BDI),健康関連QOLはSt.George’s respiratory questionnaire(SGRQ),大腿四頭筋筋力(QF),吸気筋力(PImax)とした.また肺機能も測定した.BMIは18.5未満を低体重群,18.5以上を非低体重群とした.呼吸リハ前,呼吸リハ後,呼吸リハ前より1年で評価を行った.低体重群と非低体重群の2群に分け,各群における呼吸リハの効果と2群間における変化量の差を比較した.統計学的な解析は患者背景の比較はMann-WhitneyのU検定,呼吸リハの効果と2群間の比較は多変量分散分析にて検討し,危険率5%未満を有意とした.
【説明と同意】
本研究に関する説明を十分に行い,評価,呼吸リハを実施した.また本研究に対する同意を得られた者を対象とした.
【結果】
低体重群は21例, 非低体重群は43例であった.患者背景の比較ではQFとPImaxが低体重群で有意に低値を示した.非低体重群において6MWD,ETは呼吸リハ前後で有意に改善し,1年で悪化するが,呼吸リハ前と1年の比較では有意な改善を示していた.BDI,QF,PImaxは呼吸リハ前後で有意に改善,呼吸リハ前と1年の比較では有意な改善を示していた.SGRQは呼吸リハ前後で有意に改善するが,呼吸リハ後と1年の比較では有意に悪化した.低体重群では6MWD,ETは呼吸リハ前後で有意に改善するが,呼吸リハ後と1年の比較では有意に悪化した.PImaxは呼吸リハ前後で有意に改善し,1年も有意な改善を示していた.QF,BDI,SGRQは有意な変化はなかった.また肺機能におけるFEV1(pred)は呼吸リハ前から1年で有意に悪化していた.なおBMIは両群ともに呼吸リハ前後,1年で有意な変化はなかった.
低体重群と非低体重群における呼吸リハ前後,1年の変化量の差を比較すると,6MWD,ETの変化量に有意差を認め,6MWD,ETともに低体重群の方が呼吸リハ後と1年で低下量が有意に多かった.
【考察】
呼吸リハ前後において非低体重群では運動耐容能,呼吸困難,健康関連QOL,大腿四頭筋筋力,吸気筋力が改善したが,低体重群では大腿四頭筋筋力や呼吸困難,健康関連QOLは有意な改善を認めず,それらを改善させるためには栄養療法の併用を検討する必要がある.
1年の検討において運動耐容能の改善は非低体重群では維持されていたが,低体重群では維持することができず悪化した.低体重群では運動療法だけでは長期的な効果を維持することができないため,低体重へのアプローチとして栄養療法の併用を考慮する必要がある.
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より低体重群では運動療法のみでは運動耐容能の改善が長期的に維持できないことが示唆されたため,長期的に呼吸リハの効果を維持するには運動療法に栄養療法を併用するなどより包括的な呼吸リハの介入が必要であることが示された.