理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-087
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口述発表(特別・フリーセッション)
筋力計ミュータスF-1を用いた腹式呼吸筋力評価法の考案とその再現性について
山根 主信浅居 悦子小松 優子平賀 陽子福田 珠里高尾 聡吉田 直之工藤 翔二
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キーワード: 腹式呼吸, 筋力, 再現性
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抄録
【目的】呼吸理学療法において呼吸訓練はよく行われ、その中でも腹式呼吸訓練を実施することは多い。腹式呼吸の力は、腹部に砂嚢をのせて腹式呼吸を行い、持ち上げることができる砂嚢の重さから評価する方法が一般的で、臨床的には検査者の手を患者の腹部においたときに膨隆してくる力から評価する場面も多い。しかしこの方法では訓練前後での力の変化を細かく評価することや、患者へフィードバックを数値的に行うことが難しい。そこで、主に下肢筋力の測定に用いられるミュータスF-1(アニマ株式会社、以下ミュータス)という筋力計を用いて腹式呼吸の筋力評価を行う方法を考案した。そして今回はこの評価方法で繰り返しデータを測定した場合の再現性について検討を行った。

【方法】健常成人20名(男性16名、女性4名、年齢32.7±7.6歳)を対象とした。対象者には腹式呼吸の筋力評価を行う前にまず、呼吸パターンや腹式呼吸の熟達度の評価を行った。次に、膝立て背臥位にて安静呼気時での臍高位の周径を測定し、ミュータスの固定用ベルトの長さを周径と同じ長さに調整した。そしてベルトを腹部のまわりに巻き、荷重センサーを腹部に当てた状態で腹式呼吸を意識的に10呼吸行ってもらい、その時に腹部が膨隆してくる力をセンサーが感知して表示する値を記録した。力の単位はN(ニュートン)とした。その後、一度ベルトを緩めて約5分間の休憩をとり、再度同様の方法にて10呼吸のデータ測定を行った。さらに、10呼吸のデータについて平均値、最頻値、中央値、最大値を算出し、1回目と2回目の結果を級内相関係数(以下ICC)およびBland-Altman法にて解析を行った。

【説明と同意】対象者には研究内容に関する説明を口頭または書面にて行い、同意の得られた者にデータ測定を実施した。

【結果】対象者の呼吸状態の評価結果は、呼吸数は14.7±3.2回/分、腹式呼吸が優位な者は9名、胸部と腹部が同時に動く者は11名で、腹式呼吸の熟達度スケールはグレード3以下はおらず、グレード4が6名、グレード5が14名であった。また、臍高部の周径は79.5±6.8cm、BMIは22.5±2.7kg/m2であった。データ測定時、女性2例はセンサーが反応せずに0Nを示し、男性1例は腹圧を過剰に高めながら腹式呼吸を行っていたため、この3例を除外した17名についてデータの平均値を算出したところ20.2±14.4Nであった。そしてこの17名について、1回目と2回目のそれぞれの測定における「10呼吸のデータの平均値」で解析を行うとICC=0.92、Bland-Altman法での95%信頼区間が-0.75~2.90で0含んでいた。同様に「10呼吸の最頻値」で解析を行うとICC=0.94、95%信頼区間が-0.81~2.46、「10呼吸の中央値」ではICC=0.92、95%信頼区間が-0.79~2.85、「10呼吸の最大値」ではICC=0.91、95%信頼区間が-0.34~3.87でそれぞれ0を含んでいた。

【考察】下肢筋力の測定において、ミュータスは固定用ベルトを用いることで測定結果の信頼性が高いことが報告されており、今回は腹部の膨隆する力をミュータスの荷重センサーでとらえることによってそれを腹式呼吸筋力と仮定し、数値的な評価を行った。この方法で得られたデータでは、健常者が腹式呼吸を行った場合には約20Nの圧で表されること、また、測定を繰り返して行った場合にも再現性が高いことが示された。さらに、「10呼吸の最頻値」で解析した場合に最も再現性が高いことが示唆された。しかし実際の測定においては、女性例では腹部の皮下脂肪がクッションとなってセンサーが荷重を感知しなかったり、逆に腹圧をかけすぎて呼吸を行っている場合には数値が大きく示されることが観察された。このようなセンサーの接触面や呼吸状態による測定制限を解決するには、センサーを当てる位置や声かけ方法の検討が必要であると思われた。また、今回測定している腹部の膨隆力が腹式呼吸の力を反映するかどうかについても、今後検討が必要と思われた。

【理学療法学研究としての意義】呼吸理学療法における手技や訓練は徒手的なものが多く、その訓練効果もまた徒手的に評価されることが多いため、客観性に乏しい部分がある。しかし、腹式呼吸の訓練効果を数値的に評価することは呼吸理学療法の中の呼吸訓練のエビデンスを確立していくうえで有用であると思われる。
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© 2011 日本理学療法士協会
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