抄録
【目的】近年,褥瘡の発生機序や発生要因(個体,環境ケア要因)は明らかになり,褥瘡予防の重要性は高まってきている.褥瘡予防には,利用者の身体状況のリスクアセスメントを行い,適切な褥瘡予防ケアを行っていく必要性がある.老人保健施設みつぎの苑(以下みつぎの苑)では,平成21年4月より褥瘡発生リスクアセスメントとして,大浦スケールを改訂したOHスケールを導入した.今回の目的として,1.体圧分散マットレス供給率・高機能マットレス供給率を把握する,2.OHスケールによる個々の褥瘡個体危険要因・リスクレベルを把握,3.体圧分散マットレスの適切な選定とした.そして,みつぎの苑における褥瘡予防への取り組みについて報告する.
【方法】体圧分散マットレス・高機能マットレス供給率の算出方法として,調査期間:2009年10月1日~7日,12月1日~7日に2回,みつぎの苑施設全体のOHスケール褥瘡危険要因保持者数から,体圧分散マットレス供給率及び高機能マットレス供給率を算出した.OHスケール評価方法・体圧分散マットレスの選定方法は以下の通りとした.みつぎの苑入所者に対して,入所から2週間以内にケース担当者(看護師・ケアスタッフ)及び理学療法士または作業療法士2人でOHスケールの評価を行う.自力体位交換,病的骨突出,浮腫,関節拘縮の4項目を0点~10点の範囲で点数化する.そして,0点であればリスクなし,1~3点であれば軽度リスク,4~6点であれば中等度リスク,7点~10点であれば高度リスクとして,リスクレベルの分類を行う.OHスケール分類後,軽度リスクであれば低反発マットレス,中等度リスクであればエアマットレス,高度リスクであれば,高機能エアマットレスとした.
【説明と同意】データは個人が特定できないように配慮した.
【結果】みつぎの苑施設全体のOHスケール褥瘡危険要因保持者数及び供給率については,2009年10月1日~7日入所者95名,OHスケール軽度リスク25名,中等度リスク26名,高度リスク12名.体圧分散マットレス供給率39%,高機能マットレス供給率21%であった.2009年12月1日~7日入所者96名,OHスケール軽度リスク23名,中等度リスク22名,高度リスク14名.体圧分散マットレス供給率41%,高機能マットレス供給率22%であった.OHスケール導入により,全ての利用者に対して褥瘡発生予測アセスメントを行うようになったが,現状ではOHスケールリスクに応じたマットレス選定は困難であった.
【考察】2009年4月以前は厚生労働省褥瘡危険因子評価表を褥瘡リスクアセスメントツールとして使用していたが,活用率20%以下により4月以降OHスケールが導入された.OHスケール結果より,個々のケアプランに記載を必須にすること,2週間以内に必ずケース担当及びリハビリスタッフで評価を行うことによりOHスケール活用率は100%である.
OHスケール測定後,個々の褥瘡危険個体要因及びリスクレベルの把握を行い,日常生活自立度Cレベル,OHスケール中等度リスク及び高度リスク者に対して,OHスケール後に簡易式体圧測定器ケープ社セロを使用しながら,体圧約40mmhg以下を目標に臥位姿勢及び体転方法を検討している.また,栄養・皮膚湿潤・ずれへの対策を含めた環境ケアをどのようにしていくか検討している.OHスケールリスクレベルに準じたマットレス選定に関しては,体圧分散マットレス供給率40%程度でありOHスケール点数のみで供給することは困難である.そのため,褥瘡委員会によりマットレス選定の最終決定を行っている.選定基準としては,栄養ケアモニタリングを軸に医師が判断した栄養リスク,ブレーデンスケールの皮膚湿潤の項目及びOHスケールにおける危険要因・得点,生活動作能力を総合的に判断によるものとしている.
みつぎの苑における体圧分散マットレス供給率は40%程度である.2007年の褥瘡会誌によれば,体圧分散マットレス供給率が80%以下であると褥瘡発生率は上昇するとされている.今後,定期的OHスケールリスク保持者数及び供給率の算出をすることにより,体圧分散マットレスの整備を行う必要があると考える.
【理学療法学研究としての意義】医療機関における褥瘡治療・予防を含めた対策が盛んになってきている.その中で,理学療法士の褥瘡対策への介入は重要とされてきている.本研究においてはOHスケールを用い,他職種と早期に褥瘡リスクアセスメントを行い,褥瘡予防的介入は重要であると考える.また,褥瘡予防の観点だけではなく,ベッド動作能力も考慮した体圧分散マットレスの選定を行うには理学療法士の介入が不可欠であると考える.