理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-405
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ポスター発表(一般)
高齢者の身体機能と歩幅との関係
歩行補助具使用の有無での検討
渡辺 恵子
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キーワード: 高齢者, 歩幅, 歩行補助具
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抄録
【目的】本研究の目的は,加齢により低下すると言われている歩行速度に関連している歩幅に着目し,筋力,動的バランス,静的バランスのいずれが関連するかについて,施設利用者の歩行状態(歩行補助具有り・無し)によって検討することである.
【方法】対象である介護老人保健施設利用者42名(入所者および通所リハ利用者)を現状の歩行状態から,歩行補助具無し群(以下,無し群20名;年齢82.4±7.1歳),T字杖使用群(以下,T字杖群11名;年齢82.2±7.9歳),歩行器使用群(以下,歩行器群11名;年齢84.5±4.2歳)の3群に分けた.この3群について,10m最大歩行速度,歩数(以上より,歩幅を算出),Timed up and goテスト所要時間(以下,TUG所要時間),足関節底・背屈筋力,開・閉眼片脚立ち持続時間(左右)を測定し,それぞれの項目と歩幅との相関関係を検討した.尚,T字杖群,歩行器群ともに,歩行速度とTUG所要時間は歩行補助具無しで測定した.統計処理は,Pearsonの相関係数を用い,有意水準は5%とした.
【説明と同意】尚,本研究は施設の倫理委員会で承認され,全対象者から研究参加について同意を得た.
【結果】無し群では,歩幅とTUG所要時間(r=-.692,p<001),右閉眼片脚立ち持続時間(r=.532,p<0.05),左開眼(r=.494,p<0.05),左閉眼(r=.741,p<0.01)片脚立ち持続時間とで相関が認められた.T字杖群では,足関節底屈筋力(r=.623,p<0.05)と歩幅とで相関が認められた.歩行器群では,足関節背屈筋力(r=.788,p<0.01)と歩幅とで相関が認められた
【考察】今回の研究では,無し群では,静的・動的バランス,T字杖群と歩行器群では筋力で歩幅と相関が認められた.
無し群は,日常生活は独歩で移動しており,歩行は安定している群である.この群では,TUG所要時間,片脚立ち持続時間と歩幅とで相関が認められた.歩幅は歩行速度と相関が高く,歩行速度はTUG所要時間とも相関が高いと言われている.このことより,歩行が含まれているTUGでその所要時間と歩幅が相関したと考えた.
片脚立ち持続時間について,歩行の際に立脚期を長く保つことができれば,それだけ遊脚側を前方に振り出す事ができ,結果として歩幅が長くなる.立脚期では片脚立ちとなっている為,その持続時間が長ければ上述より歩幅が長くなると考える.特に,閉眼の持続時間との相関係数が高かったことからも,この群は歩行状態が安定しており,片脚立ち持続時間と歩幅が相関したと推察した.
T字杖群は,日常生活は若干歩行状態が不安定であり,T字杖を使用している群である.この群では,足関節底屈筋力と歩幅とで相関が認められた.歩行の際に足関節底屈筋は立脚期の下肢の蹴り出しに関わっている.その為,底屈筋力が強ければ遊脚期の下肢が大きく振り出され,歩幅が長くなる.この群は歩行状態が不安定であるが,T字杖のみで歩行が可能であり,蹴り出しに関わる底屈筋力が歩幅と相関したと考えた.
歩行器群は,日常生活では歩行が不安定であり,歩行器が必要な群である.この群では,足関節背屈筋力と歩幅とで相関が認められた.歩行器歩行では,歩行器を押すことによって前進する.この場合,自力で立脚期下肢を蹴りだす必要はほとんど必要ないが,躓かないように足関節を背屈させる必要がある.背屈筋力が強く,背屈を維持できれば歩幅も長くなる.本研究では,補助具無しで測定したが,普段の歩行状態が影響し,背屈筋力と歩幅が相関したのではないかと推測した.
【理学療法学研究としての意義】今回,施設利用者の歩行状態によって,加齢により低下する歩幅と身体機能との関係を検討した.高齢者の歩行状態を知ることは,理学療法士の業務の中で重要な部分であり,それに関連が強い歩幅について検討することは非常に意義があることである.また,歩行補助具の有無や補助具の種類(T字杖・歩行器)による高齢者の歩行状態の把握は,今後歩行補助具の選択を検討する際の一助になるのではないかと考える.
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© 2011 日本理学療法士協会
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