理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-409
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ポスター発表(一般)
軽度認知症患者における運動療法・回想法の介入について
荒木 聡子小田 陽子藤原 弥生中村 沙織稲川 利光
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抄録
【目的】
近年、認知症の診断の研究も進み、軽度認知障害 (以下、MCI)や認知症初期の早期診断が確立しつつあり、リハビリテーションの介入の有効性が高い集団として注目されている。当院では神経内科、精神神経科、リハビリテーション科、総合相談室と連携し、軽度認知障害および認知症初期の患者とその介護者を対象に運動療法と回想法を実施することとなった。そこで、本研究は、MCIや認知症初期の患者への非薬物的介入として、運動療法および回想法の有効性を明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象者は、平成20年10月~平成22年7月までに、神経内科より紹介され、プログラムに同意した26名(男性14名、女性12名、年齢;79±5歳、MCI15名、認知症初期10名、中等度認知症1名)とその介護者である。プログラムの内容は、1グループ2~5組で、運動療法・回想法を週1回、75分間、全8回を実施する。回想法は8回中の2回は介護者が同席し、精神神経科臨床心理士にて30分間実施される。運動療法は、PTが実施し、ストレッチ、レクリエーション、音楽に合わせた有酸素運動を介護者と一緒に20分間実施する。検査は、プログラム実施前2週間以内と実施後2週間以内に施行する。検査内容は、認知機能検査(MMSE、RBMT、TMT-A/B)、日常生活活動(I-ADL)、精神機能(老年期うつ病尺度15項目版(以下GDS))、介護負担度(Zarit介護負担感)、アンケート、介護保険サービス利用の有無とする。統計は統計ソフトSPSS17.0を使用する。統計処理は、ノンパラメトリック検定でWilcoxonの符号付き順位検定を行った。
【説明と同意】
当研究はヘルシンキ宣言に則り、対象者に研究の主旨を説明し、同意を得た上で、倫理的な配慮を行った。
【結果】
プログラムを途中で離脱するケースはなく、出席率は96%であった。認知機能についてRBMT、TMT-A/Bにプログラム実施前後の得点に有意差はなかった。MMSE総点で、実施前20.17±4.27点から実施後21.58±4.28点に有意に改善があった(p<0.05)。下位項目では、日時の見当識(2.42±1.64点→3.00±1.64点)および注意・計算(2.67±1.61点→3.46±1.62点)に有意に改善がみられた(p<0.05)。I-ADLは、実施前後では有意な改善はみられなかった。GDSでは、うつ症状なし21名、軽度うつ症状5名であった。軽度うつ症状において3名はうつ症状なしへの改善があり、実施前3.50±1.84点から実施後2.81±1.92点と有意に改善がみられた。介護負担尺度においては、有意差はなく、現在、介護負担を感じていない意見が多かった。介護者のアンケートより、コメントをコード化し、カテゴリー別にした結果、(1) 患者・介護者間のコミュニケーションの増加、(2) 活動意欲の向上、(3) 生活リズムの改善、(4)将来の介護への不安感の軽減、となった。介護保険サービス利用は、既に利用しているが4名、利用していないが21名であった。
【考察】
今回プログラムを実施し、認知機能検査ではMMSE総得点に有意に改善があり、下位項目においては、見当識、注意・計算に改善がみられた。他の認知機能検査は有意な低下がなく、維持していると考えられる。I-ADLは、もともと日常生活能力が高い患者が多いために著明な改善はなく、維持できている。また、GDSによる検査結果と介護者のアンケート結果(1)、(2)、(3)より、患者自身のうつ症状からの改善がみられたと考えられる。介護負担に関しては、対象者の認知機能低下は軽度であるため、介護負担を感じていない介護者が多かった。しかし、患者の物忘れに対する漠然とした不安感は持っている。それに対して、同じ悩みを持つ介護者が話せる環境があったことで、今後の介護への不安感の軽減につながったと考える(アンケート結果(4))。さらに、今まで介護保険を知らず、利用していない患者数名が現在は、総合相談室を通し、ディケアやディサービスを紹介されて利用している、または検討中である。
今回、2~3ヶ月間で、認知機能、精神機能の一部改善し、介護負担度の軽減がみられた、今後、定期的な運動や回想法を継続して行い、長期的な経過観察が必要であろう。
【理学療法学研究としての意義】
認知症の早期発見、非薬物療法の早期介入により、認知機能の維持・向上、精神的機能の改善が示唆される。運動療法や回想法の効果を検討し、長期的な介入を継続して行うことで、認知症の病期の進行を遅らせることが期待できる。
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© 2011 日本理学療法士協会
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