理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-408
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ポスター発表(一般)
地域高齢者の歩行補助具使用時の歩行運動に関する予備的研究
仲 貴子田舎中 真由美
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抄録
【目的】歩行・移動支援機器は、加齢による歩行・移動能力の低下に際し、生活空間を拡大させ、生活機能の低下を予防・解消するのに役立てられるが、使用者に応じて選定されなければ使用者の身体機能を損なう危険性も孕む。特にシルバーカー(荷籠付き歩行車)は、使用者の身体機能と代償機能とが適合していない事例や、誤使用の報告も散見される(田中;2002, Plis Kら;2003) 。我々はシルバーカーによる過剰な代償や誤使用は下肢抗重力筋群や体幹支持筋群の筋力低下・姿勢調節機能の低下を招くと予測している。しかしシルバーカー使用による身体機能への影響を精査した研究はない。本研究の目的は歩行・移動支援機器の適切な選定と使用を促進するための基礎データを収集するために地域在住虚弱高齢者を対象にシルバーカーを用いた歩行実験を行うこととした。
【方法】対象者は介護予防通所介護施設P (東京都港区) を利用する要支援高齢者5名 (男性4名、女性1名、平均年齢±S.D.=80.0±2.1) であった。対象者は、左側身体標点5箇所 (肩峰点・股関節点・膝関節点・足関節点・中足骨点;各点の定義は持丸らを参照) に反射性マーカを貼付し、下肢主動筋 (大臀筋・中臀筋・大腿直筋・大腿二頭筋長頭・前脛骨筋・腓腹筋外側頭) には表面筋電図導出用能動電極と、前・後足底部に同期用フットスイッチを貼付し、屋内に設置した全長7m幅1mの歩行路上を、(1)通常歩行3試行、(2)シルバーカー (島製作所社製 ハーモニーAL、ハンドル高は任意) 使用下歩行3試行、計6試行の課題試行を行った。課題試行中の左側身体運動はPanasonic社製デジタルビデオカメラSDR-S100を用いて左側方より動画収録し、同時に表面筋電図をMEGAエレクトロニクス社製表面筋電計 バイオモニターME-6000T8で記録した。撮影した動画からSiliconcoach社製マニュアルデジタイズソフトSiliconcoach Digitizerを用いて各関節点の矢状面上二次元座標を求め、DIFFモデリングにより矢状面上体節重心位置と関節中心を算出。重心位置と関節中心のデータは3点移動平均により平滑化し、身体合成重心位置と関節角度を求めた。導出した表面筋電図生波形は、10~350Hzの帯域遮断フィルタのあと全波整流処理を行い、サンプリングクローク200μsecで各導出筋の一歩行周期の筋電図積分値[mv・sec]を算出した。評価指標は歩行速度[m/sec]・歩幅[m]・歩行率[steps/min]・立脚終期股関節最大伸展角度[deg]・身体合成重心鉛直移動量[cm]・各筋の積分筋電図[mv・sec]とし、課題施行間で比較した。 統計処理には対応のあるt-検定を用い有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、対象者は本研究への参加に伴う利害について口頭ならびに書面により十分な説明を受け、研究参加同意書に自書にて署名の上で参加した。
【結果】普通歩行とシルバーカー歩行の各課題試行中の評価指標のうち、歩行速度[m/sec]13.6±0.81; 1.02±1.10、股関節最大伸展角度[deg]15.9±0.7; -2.8±7.63、大殿筋筋電図積分値[mv・sec]470.2±32.6; 268.3±41.4、中殿筋筋電図積分値[mv・sec]232.0±37.8; 199.8±45.1のそれぞれに統計学的有意差(p<0.05)があった。
【考察】普通歩行に比べ、シルバーカー使用下では歩行速度・股関節最大伸展角度・身体合成重心鉛直移動量が低下し、大殿筋・中殿筋の筋活動量が低減した。本研究での課題試行(2)ではシルバーカーのハンドル高を対象者の任意としたが、対象者全員が適切なハンドル高とされる臍高よりも5~15cm程度低い高さを選択した。特に歩行安定性を求めるシルバーカー使用者はハンドル高を低くし体幹前傾を増大させることで低い身体重心を嗜好するのかもしれない。その結果、股関節の最大伸展角度は低下し股関節伸転筋群の筋活動量は著しく低下する。シルバーカーを使用する高齢者は、歩行中の股関節周囲筋の筋活動量の低減に留意し、この筋力低下を生じさせないようなハンドル高の設定と、筋力増強エクササイズの指導等を行うことが肝要かもしれない。
【理学療法学研究としての意義】本研究の成果は歩行・移動支援機器をはじめとする福祉機器と使用者の身体機能予後の関連を考慮する上での基礎的資料となり、高齢者の生活機能の維持・向上を図る上での学術的意義を有すると考える。
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© 2011 日本理学療法士協会
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