理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-430
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ポスター発表(一般)
在宅要介護者に対する呼気筋トレーニングの効果
柳澤 幸夫松尾 善美中村 武司堀内 宣昭
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抄録
【目的】介護保険における要介護度が高い対象者はADL制限が高度で寝たきりレベルの人が多く,呼吸機能を含む全身機能が低下しており,直接的な死亡原因に肺炎や感染症が上位に位置している.誤嚥性肺炎の予防対策は特に重要であり,口腔ケアなど多くの対策が現在も行われている.近年,誤嚥性肺炎の予防に関する報告の中で,海外においてはパーキンソン病患者に対しExpiratory Muscle Training(EMT)を行うことによって誤嚥性肺炎のリスクが減少したとの報告(Pitts et al.2009)や,本邦では脳梗塞後の摂食嚥下障害患者に対するEMTが呼吸筋力や咳嗽能力を改善し,誤嚥性肺炎の予防につながったとの報告(小島,2006)もあり,我々はこのEMTの効果に着目した.現在までにEMTを廃用症候群を主とする要介護認定者に対して実施し,効果をみた報告は調べ得た限りない.本研究では,在宅要介護認定者にEMTを実施し,介入前後での呼吸機能,呼吸筋力,摂食・嚥下質問紙を比較し,その効果を検討した.本研究は(財)勇美記念財団による研究助成「在宅要介護認定者への肺合併症の予防に向けたホームトレーニングの試み」の一部として実施した.
【方法】対象は在宅療養中であり,要介護認定5で介護を要する91歳の女性である.身長は135cm,体重40.0kgで小柄であり,認知症は有していない.研究デザインはA-B-A-B-A(A:休止期,B:介入期)とし,休止期は2週間・介入期間(EMT実施)は3週間とした.データは時期別にA1-B1-A2-B2-A3とし,管理した.RESPIRONICS社製Threshold PEP&reg;を使用し,車椅子坐位にてEMTを実施した.呼気圧負荷設定は最大呼気筋力の30%とし,2回目以降の設定圧は、再評価時に得られた最大呼気圧に応じて、負荷圧の再調整を随時行った.頻度は1日15分2回とした.測定は呼吸機能検査及び呼吸筋力を1週間に2回実施し,端坐位で測定した.呼吸機能検査はMedikro社製スパイロメータを使用して%肺活量(%VC)ならびに最大呼気流量(PEF)を測定し,呼吸筋力はMedikro社製RPMにて,最大呼気口腔内圧(PEmax)・最大吸気口腔内圧(PImax)を測定した.また,EMT介入前後の摂食・嚥下障害の変化を大熊らの質問紙を用いて測定した.各データの推移を確認するとともに各時期の平均を求め,かつPEFと呼吸筋力と相関係数を求めた.統計解析については,Shapiro-Wilk検定にて正規性を確認後, Spearmanの相関係数を求めた.有意差はp<0.05とした.
【説明と同意】対象者には,本研究の目的と内容を口頭および書面にて十分に説明し,同意の署名を得た.なお,本研究は健康保険鳴門病院倫理審査委員会の承認(0908)を得て実施した.
【結果】呼吸機能検査における%VCではA1で45.5%,B1で48.7%,B2で51.2%と軽度の増加,PEFはA1で91.0L/min,B1で114.2L/min,B2で138.4L/minと増加した.PEmaxはA1で19.8cmH2O,B1で27.7cmH2O,B2で32.5cmH2Oと増加,PImaxはA1で10.5cmH2O,B1で14.7cmH2O,B2で24.2cmH2Oと増加した.PEFとPEmaxは,有意な強い相関を認めた(r=0.844, p<0.01).また,摂食・嚥下障害質問紙のEMT介入前後の変化では嚥下困難感・お茶によるむせ・痰のからみ・食事時間の短縮の項目に改善がみられた.
【考察】 これまでに健常者に対するEMTは吸気筋及び呼気筋の増強効果が得られることが報告(秋吉ら,2001)されている.本研究において,要介護認定者へEMTを行った結果,吸気筋力・呼気筋力の増加が得られたことから,ADL制限があり,ベッド上生活を余儀なくされる要介護状態においても健常者と同様のEMTの効果は得られることが確認できた.EMTによるPEFの増加については,PEmaxと有意な強い相関があったことから,呼気筋群の増強が関与していると推測した.また,摂食・嚥下障害質問紙の変化については,EMTによる繰返し行う呼出動作によって呼吸筋のみならず,摂食・嚥下に関与する舌骨筋群へ刺激が入力され,嚥下困難感・お茶によるむせ・痰のからみ・食事時間の短縮に影響を及ぼしたと考えられた.EMTが嚥下機能へ及ぼす影響については,今後さらなる検討を行う予定である.
【理学療法学研究としての意義】EMTによって,在宅要介護認定者の呼吸筋力・呼吸機能の改善のみならず,嚥下機能の改善が確認できた.よって,EMTは要介護認定者への誤嚥性肺炎の予防対策の有効な手段となることが示唆された.
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© 2011 日本理学療法士協会
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