理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-441
会議情報

ポスター発表(一般)
地域在住高齢者における転倒恐怖感,活動範囲の狭小化と歩行との関係性
橋口 優土井 剛彦堤本 広大三栖 翔吾浅井 剛山田 実平田 総一郎
著者情報
キーワード: 転倒恐怖感, 活動範囲, 歩行
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】
転倒恐怖感は高齢者の約60%が有し、活動制限のため、身体機能やQOLの低下につながり、さらなる活動の制限が生じるという悪循環を形成することから、高齢者の機能低下に関わる重要な心理的問題である。転倒恐怖感は、高齢者の歩行に影響を及ぼし、転倒恐怖感を有する高齢者は歩行速度の低下や歩幅の短縮を示し、歩行を変化させていることが明らかとなっている。一方、活動制限はその量や範囲の制限からADL制限まで幅広く包含しているが、地域在住高齢者において活動範囲の維持は、運動機能およびIADLの維持と密接に関与することから重要であると考えられている。本研究の仮説として、転倒恐怖感を有し且つ活動範囲の狭小化を示す高齢者は歩行の変化がより大きく歩行の安定性に変化が見られるのではないかと考えた。そこで、地域在住高齢者において転倒恐怖感および活動範囲の狭小化と歩行との関連を示すために、歩行に対して転倒恐怖感と活動範囲の狭小化が交互作用を有しているかどうかを、検討した。
【方法】
対象は、研究参加への同意の得られた地域在住健常高齢者41名(男性16名、女性25名、平均年齢72.5±7.6歳)とした。転倒恐怖感の評価を、転倒恐怖感と関係性の高い自己効力感を示すFall Efficacy Scale (FES)を用いた。FESの取り得る範囲は0-40点とし、得点が低ければ転倒恐怖感の程度が強い。活動範囲の評価を、Life Space Assessment (LSA)を用いた。LSAの取り得る範囲は0-120点とし、得点が低ければ活動範囲の狭小化の程度が強い。対象者は、3軸加速度センサを第3腰椎棘突起部付近および踵部に装着・歩行し、得られた加速度データより、踵接地を同定し歩行周期時間の変動性(stride time variability: STV)および側方方向における調和性の指標(harmonic ratio: HR)を算出した。HRの値は、高ければ歩行の調和性の高い歩行パターンを表す。統計解析は、従属変数を上記の歩行指標、独立変数をFES、LSAの得点、およびその交互作用項とした重回帰分析を行った。なお、有意水準は5%未満に設定した。
【説明と同意】
事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し、同意を得た者を対象者とした。また、本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行った。
【結果】
対象者特性として、FESの平均得点は39.2±3.6点、LSAの平均得点は98.2±20.4点であった。FES、LSA、およびその交互作用項と歩行指標との重回帰分析の結果、STVについては、どの項目とも有意な関係性は認められなかった。しかし、側方方向のHRにおいては、FES(標準β=0.83,p=0.012)および、FESとLSAの交互作用項(標準β=0.67,p=0.043)との間に有意な関係性が認められた。
【考察】
本研究の結果より、転倒恐怖感および活動範囲の狭小化が、歩行における側方方向の調和性の指標に対して、有意に交互作用を持つことから、転倒恐怖感を有し且つ活動範囲の狭小化を示すことと歩行の側方方向の調和性には関連があることが示唆された。歩行における側方方向の調和性との関連を示した理由として、転倒恐怖感による歩行の変化に対して、活動範囲の狭小化と関係する運動機能の低下が関与することで、歩行の変化を意識的に大きく生じさせた結果、歩行の調和性を変化させたものと推定される。そして、高齢者の転倒恐怖感の評価と活動範囲の評価をともに用いることは有用であると考えられ、今後転倒恐怖感を有し且つ活動範囲の狭小化を示す高齢者において、運動機能の低下と歩行との関連について詳細に検討し、明確にしていくことが必要であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
活動範囲の狭小化と歩行の安定性との関係性について検討された研究についての報告は少なく、本研究において転倒恐怖感を有し且つ活動範囲の狭小化を有する高齢者においては、歩行に関してより詳細に検討することが必要であると考える。
著者関連情報
© 2011 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top