理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-389
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ポスター発表(一般)
介護予防普及・啓発活動に関する一考察
ソーシャルマーケティングを用いた介護予防マネジメントにおける住民意識とソーシャルキャピタルとの関係
川副 巧成飯島 幸枝松林 大和林田 早代山見 将司松本 純芳太田 徹山内 淳光武 誠吾
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抄録

【目的】介護予防は、超高齢化社会における日本の新たなライフスタイルの一つであり、その普及・啓発には、地域住民の意識と理解が重要である。しかし、住民全てが介護予防への意識や理解が深い訳ではない。その為、効果的な介護予防の普及・啓発にはイノベーター(未知の商品やサービスに自ら進んで手を伸ばす者)としての住民の存在が不可欠との報告がある。しかし、イノベーターとなる住民の「資質」について研究された報告は殆ど無い。そこで本研究では、個人の関係から創出される意識としての「ソーシャルキャピタル」に注目し、介護予防普及・啓発活動に関わった地域住民を対象に、住民意識の中のソーシャルキャピタルの存在を明らかにする目的で調査を行った。
【方法】南長崎地区にて同地区のNPO法人が主催する介護予防普及・啓発イベントに自主的に参加した地域住民116名を対象に、ソーシャルキャピタルに関するアンケート調査を行った。ソーシャルキャピタルとは、個人間の繋がりや結びつきから築かれた関係や、その関係から創出されたある種の「力」と定義され、今回我々はそれを「地域愛」と表現する。緒家の報告を基に、ソーシャルキャピタル研究における概念上の共通項として「信頼」「規範」「ネットワーク」の3つの次元を仮定し、その次元を構成するインディケータとして、住民の日常生活が反映された価値や行動についての質問項目を各次元おいて3問ずつを設定した地域愛に関するアンケート用紙を作成して調査を行った。
【説明と同意】本調査は、記名式のアンケート用紙を用い、対面形式で回答を得た。調査対象者には、調査者が本調査の趣旨と内容を説明し、本人の意思を確認して書面に記入し回答直後に回収した。また、アンケート用紙はプライバシー保護を明記し、分析終了後は、厳重に保管及び処分等により個人を特定できない様配慮する旨、説明を行った。
【結果】参加者数116名のうち、アンケート回答者は69名であった(有効回答率59.5%)。回答者の内訳は男性9名、女性60名で、平均年齢は72.3±13.0歳であった。実施したアンケートの結果から、3要素9変数間の関連について因子分析を用いて解析した結果、2つの因子が求められた。因子を検討したところ、今回の調査対象者が有する住民意識として「ネットワーク」と「規範」の2つの因子を表している事が解った。また、ネットワークの因子は全変動の約35%、規範の因子は約15%を説明していることが判明した。
【考察】自主的に関わった地域住民の意識の中にはソーシャルキャピタルが存在していた。これは個人のレベルで自身の心身に対する意識が高く、それらに対し自ら情報収集を行い、行動し得る住民の中には、その人個人の行動や価値を通して地域にも関心がある事を伺わせる。さらに、ソーシャルキャピタル自体、概念としての「信頼」「規範」「ネットワーク」の3つの次元を有する事から、その存在は、地域で行われる介護予防普及・啓発に関する事業やイベント等への参加を通し、住民間のコミュニケーションの深まりや協調性や協働意識等の促進する事も期待される。すなわち、地域で自主的に行動し得る住民の持つ意識は、介護予防普及・啓発の為のイノベーターとしての可能性を示唆していると考えられた。今後、自主的に行動し得る住民の意識を、介護予防普及・啓発の理解や行動に結びつけていく為に、イノベーターやアーリーアダプター(早期採用者)との関係性についての検討が必要であろう。
【理学療法研究としての意義】地域での介護予防活動の推進は、保健福祉理学療法の領域と考えられるが具体的技法についての研究は少ない。本調査は、保健福祉領域のソーシャルマーケティングの技法を一部用い行った。マーケティングとは、目的とする行動を他者に採択してもらう為の全ての活動を指しており、特に地域における健康教育等への応用は他の保健福祉分野でも積極的に研究が進められている。職域拡大に向け理学療法士の地域での保健福祉活動は重要であろう。その為の新たな知識・技法への取り組みは不可欠との視点で、本調査に理学療法研究としての価値を見る。

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© 2011 日本理学療法士協会
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