理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-390
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ポスター発表(一般)
カークパトリックモデルを用いたコミュニケーションスキル研修効果の評価
田邊 素子鈴鴨 よしみ出江 紳一
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抄録

【目的】介護予防ケアプランの目標達成のためには、利用者本人が主体的に提供サービスに参加することが必要である。ケアマネジメント担当者には利用者の意欲を引き出すコミュニケーション能力が求められるが、そのための教育プログラムは少なく、また、研修効果は十分に検証されていない。カークパトリックモデルはアメリカで広く使用されている研修効果評価モデルあり、日本でも企業等の人事開発に導入されているが、医療分野でこのモデルを用いて研修効果を検証した報告はまだない。本研究では介護予防ケアマネジメントを担当する保健師等を対象にしたコミュニケーション研修の効果を、カークパトリックモデルを用いて検証することを目的とした。

【方法】対象はY市の地域包括支援センターの保健師等112名と担当する利用者とした。保健師等は、希望により集合研修とフォローアップの両方を受ける重点介入群、集合研修のみを受ける研修介入群、対照群の3群にわけられた。利用者も担当保健師等に従って3群に分けられた。集合研修では、基本的なコミニュケーションスキル(ペーシング・承認・質問・提案)について講義とロールプレイを行った。フォローアップ研修では、4~5名のグループに分かれ、集合研修後の3ヶ月間に計8回、電話会議システムを利用しスキルを現場で使用した時の問題点や成果についてフォローを受けた。研修効果の指標は、カークパトリックモデルの4つのレベルに基づき設定した。レベル1の研修満足度は、研修参加保健師等の研修満足度を評価した。レベル2の学習到達度は、保健師等のコミュニケーションスキル自己評価を指標とし、保健師等は研修前、研修終了後1ヶ月、3ヶ月時点の計3回、回答した。レベル3の行動変容は、利用者の保健師等に対するコミュニケーション満足度を指標とした。レベル4の成果達成度は、利用者のアウトカム(利用者の行動の自発性・自己効力感・健康関連QOL)を指標とした。利用者は研修後1ヶ月、3ヶ月時点の計2回、調査票に回答した。レベル1の研修満足度は、「とてもそう思う」と答えた保健師等の割合を求めた。レベル2の保健師等コミュニケーションスキルの自己評価は、反復測定分散分析を用いて、3群の経時的変化を比較した。また、各時点間の差得点を求め一元配置分散分析とテューキーのHSD検定にて3群比較を行った。レベル3、4の指標は時点ごとに一元配置分散分析にて3群比較を行った。危険率5%未満を統計学的有意とした。

【説明と同意】保健師等には事前に説明会を実施し研究参加について書面で同意を得た。利用者に対しては参加保健師等が研究説明書を用いて説明を行い、書面で同意を得た。本研究は東北大学医学系研究科倫理委員会にて承認され実施された。

【結果】辞退や調査票の未提出等により保健師等80名、利用者266名のデータを解析した。保健師等、利用者の特性は、3群間で差はなかった。研修満足度は、「スキルの活用」で67.8%、「研修の有用性」で61.5%の保健師等が「とてもそう思う」と回答した。保健師等のコミニュケーションスキル自己評価得点は、重点介入群と対照群において経時的に有意に上昇した(重点介入群:F = 11.28、p < 0.001、対照群:F = 4.03、p < 0.05)。時点間の差得点では、研修後3ヶ月時と研修前の自分を振り返った得点の差のみが群間で有意に異なり(p < 0.01)、重点介入群が他群よりも大きな値を示した。利用者の保健師等に対する評価や利用者アウトカムは3群間に有意な差はなかった。

【考察】レベル1の研修満足度については、本研修を受けた保健師等から高い評価が得られた。レベル2の学習到達度については、保健師等のコミュニケーションスキルが重点介入群で向上していたことから、フォローアップを含めた研修が効果的であると考えられる。しかし、レベル3およびレベル4の指標は3群で差がみられなかった。本研究で実施した保健師等に対するコミュニケーションスキル研修は、満足度および学習到達度のレベルには効果が認められたが、行動変容および成果達成度のレベルへの効果には至らなかった。今後は、さらに高レベルに効果を及ぼすための研修内容を工夫すること、レベル3,4の評価指標を再検討することなどが必要である。

【理学療法研究としての意義】研修の効果判定は研修時のアンケートなど受講生の満足度評価にとどまることが多い。本研究においては、カークパトリックモデルを用いることによって研修効果がどのレベルに及んでいるのかを明らかにすることができた。今後、このモデルを理学療法分野に導入し、満足度のみならず行動変容や成果達成度(行動変容の対象者への影響)を検証することが必要と考える。

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© 2011 日本理学療法士協会
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