理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-391
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ポスター発表(一般)
運動啓発のメッセージバナーが当院職員の階段利用促進に及ぼす影響について
出口 仁青井 健中島 英彦竹井 義隆
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キーワード: 階段, 運動, 啓発
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抄録
【目的】
理学療法士は特定健康指導に携わることができるようになり運動啓発に関し重要な役割を果たす職種であると考える。
運動啓発の方法については、個別にアレンジし実施することが望ましいが、時間とコストを要する。これらの欠点を補う方法としてはメッセージバナー(掲示物)を用いる方法がある。野村らの先行研究では、不特定多数に対しエスカレーター利用から階段利用への運動促進効果が明らかにされている。今回、我々は当院最上階の5階に勤務する職員24名を対象に、階段利用を促進するメッセージバナーの影響について検証したので報告する。
【方法】
コミカル型の3種のメッセージバナー「階段一段、ごはん一粒のダイエット」「転ばぬ先の貯筋・貯骨!」「階段で毎日脚磨き!」のコピーと図柄で構成されるメッセージバナーを院内のエレベーター横、職員控室および更衣室に平成22年10月13日から1週間貼付した。
貼付前、対象者に1週間の階段利用状況についてアンケートを依頼し、その回収後にメッセージバナーを上記場所に貼付した。
貼付1週間後に再びアンケートを依頼し、1週間の階段利用状況および各メッセージバナーの印象を調査した。
階段利用状況については「全く利用しなかった」「ほとんど利用しなかった」「時々利用した」「ほとんど利用した」「常に利用した」の5尺度で、各メッセージバナーの印象については「全く影響を受けなかった」「ほとんど影響を受けなかった」「どちらでもない」「やや影響を受けた」「非常に影響を受けた」の5尺度での回答を依頼した。どちらも統計学的有意水準は5%とした。
【説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿ってアンケート回答者に対し研究趣旨を説明し同意の得られた者のみを対象とした。尚、本研究にあたっては当院倫理委員会に承認を得た。
【結果】
対象者24名中、同意を得た18名(看護師4名、看護助手7名、理学療法士4名、作業療法士2名、リハビリ助手1名、男性5名、女性13名)からアンケートを回収し、分析を実施した。年齢は20歳代2名、30歳代4名、40歳代4名、50歳代8名であった。
階段利用状況については貼付前が「全く利用しなかった」0名、「ほとんど利用しなかった」4名、「時々利用した」7名、「ほとんど利用した」3名、「常に利用した」4名であったものが、貼付後は「全く利用しなかった」1名、「ほとんど利用しなかった」2名、「時々利用した」4名、「ほとんど利用した」4名、「常に利用した」7名となり、「ほとんど利用した」「常に利用した」が貼付前7名から貼付後11名に増加したが、統計学的有意差はみられなかった(P=0.142,Wilcoxonの符号付き順位検定)。
また、メッセージバナーの印象については、「階段一段、ごはん一粒のダイエット」については「全く影響を受けなかった」2名、「ほとんど影響を受けなかった」4名、「どちらでもない」6名、「やや影響を受けた」4名、「非常に影響を受けた」2名で、「転ばぬ先の貯筋・貯骨!」については「全く影響を受けなかった」4名、「ほとんど影響を受けなかった」4名、「どちらでもない」6名、「やや影響を受けた」2名、「非常に影響を受けた」2名で、「階段で毎日脚磨き!」については「全く影響を受けなかった」2名、「ほとんど影響を受けなかった」7名、「どちらでもない」2名、「やや影響を受けた」6名、「非常に影響を受けた」1名で、「階段一段、ごはん一粒のダイエット」が「やや影響を受けた」と「非常に影響を受けた」とするものが7名と最も多かったが、統計学的有意差は認めなかった(P=0.169,Freidman検定)。
【考察】
メッセージバナー貼付前後で階段利用率に統計学的有意差を認めなかったのは、荷物の有無や緊急性といった条件を考慮しなかったことや、1週間の状況をまとめて自己判断する形式の質問であることも要因であると思われる。また、今回用意したメッセージバナーは全てコミカル型であり、対象者に中年が多かったことや専門職種といった条件下では、対象者への尊厳の問題も含め、負の効果を与えた可能性も示唆された。
また、「階段一段、ごはん一粒のダイエット」が他の2種のメッセージバナーよりも影響を受けたとするものが多かったことについては、対象者に女性が多かったことによる影響と思われる。
これらのことから、今回は医療職を対象とした研究であったが、特定集団に対してメッセージバナーを用いる運動啓発の方法には、メッセージバナーの様式や効果の検証方法も含め、今後更なる追加検討が必要であると推察された。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法士の関わりが望まれる運動啓発の方法について、医療職を対象としたメッセージバナーの影響に関する知見および今後の課題を本研究を通して提示した。
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© 2011 日本理学療法士協会
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