理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-409
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ポスター発表(一般)
杖の使用が体幹下肢屈曲姿勢立位時の呼吸循環反応に与える影響
高齢者体験装具を用いた健常者での検討
奥 壽郎廣瀬 昇
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抄録
[目的]:円背高齢者が杖を使用する効果が身体的・ADL・QOL面で感じられることは多い。高齢者で杖が立位・歩行へ及ぼす影響を検討する場合、変形が様々で、筋力・呼吸循環機能などの低下を来している場合が多い。研究の目的は、健常者を対象に高齢者体験装具(以下、装具)を使用し、体幹下肢屈曲姿勢変化に着目し、杖の使用が立位時の呼吸循環反応に与える影響について検討することである。
[方法]:健常男性6名(年齢21.4歳、身長164.8cm、体重63.4kg)を対象とした。装具は、ダイワラクダ社製高齢者疑似体験システム「シニアポーズ」を用い、仲田の姿勢分類を参考に、体幹屈曲20°、膝関節屈曲15°に設定した。測定条件は、装具は装着しないで杖も使用しない条件⇒条件A、装具を装着して杖は使用しない条件⇒条件B、装具を装着して杖を使用する条件⇒条件Cの3条件とした。呼気ガス分析は、ミナト医科学社製呼気ガス分析装置AEROMONITOR AE300Sを用い、課題の開始時安静座位から終了時安静座位までの呼気ガスを測定した。分時換気量(以下、VE)・1回換気量(以下TV)・呼吸数(以下、RR)・運動耐容能(以下、V(・)O2/W)を求めた。循環器系は、ベッドサイドモニター日本光電社製BSM-2401を用い、心拍数(以下、HR)を求めスタンド式水銀血圧計を用い収縮期血圧(以下、SBP)・拡張期血圧(以下、DBP)を測定した。自覚的運動強度(以下、RPE)としてBorgscaleも聴取した。測定時間は5分間とした。平均値の差について、反復測定(対応のある)による一元配置分散分析で検定し主効果が認められた場合、多重比較を行った。有意水準は危険率5%未満とした。統計処理には統計解析ソフトSPSS 11.5J for Windowsを使用した。なお、本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得て実施した。
[結果]:HR(bpm)・VE(l/min)は、3条件間で有意差は認められなかった。RR(rpm)は条件A・条件B・条件Cの順に、15.9、20.1、15.7で、条件Aは条件Bと比較して有意に高い値を、条件Cは条件Bと比較して有意に高い値を示した(p<0.05)。V(・)O2/W(ml/kg/min)は同順に4.6、5.4、4.8で、条件Aは条件Bと比較して有意に低い値を示した(p<0.05)。SBP(mmHg)は、138.7、156.3、151.0、DBP(mmHg)は、80.3、94.7、100.0で、SBP、DBPともに、条件Aは条件B・条件Cと比較して有意に低い値を示した(p<0,05)。RPEは、6.7、10.7、9.7で、条件Aは条件B・条件Cと比較して有意に低い値を示した(p<0,05)。
[考察]:条件Aと条件Bの比較では、RR・V(・)O2/W・SBP・DBP・RPEで条件Bの方が高値を示した。装具装着下による立位では体幹・下肢が屈曲位を強いられ、体幹下肢筋群に立位を保持するために、大きな筋活動が要求されると考えられ、体幹下肢筋群の末梢組織の酸素摂取量が高くなり、運動時の体力の指標であるV(・)O2/Wが高値を示したと考えられる。呼吸器系ではRRにおいて増加を示し、装具装着下においては酸素需要に対して、VEを呼吸数増加により補償しているものと推察できる。このことから、装具装着での立位姿勢においては、胸郭の運動が制限され換気応答を呼吸数で補っていると考えられた。これらに伴ってSBP・DBPを増大させて、末梢組織の酸素需要に適応したと考えられた。身体的ストレスから、RPEでも高値を示している。条件Bと条件Cの比較では、RRで条件Bで高値を示し、RR以外のパラメータにおいても、V(・)O2/W・HR・VE・RPEで低値を示す傾向であった。体幹下肢屈曲位において杖を使用することにより杖が身体の支持力の一助となり、体幹下肢筋群の過剰な収縮が抑制される効果が得られ、V(・)O2/Wが低下したと思われる。呼吸器系においても杖を使用することにより、体幹が伸展方向に支持をし胸郭を拡張させて、TVを増加させVEを確保できたものと思われる。RPEにおいても身体的反応が自覚的に反映されて、低値を示したと思われた。条件Aと条件Cとの比較では、SBP・DBP・RPEで条件Cの方が高値を示した。呼吸器系において自然立位時と同程度にまで負担を軽減させる効果が示唆された。一方、杖を保持するため上肢伸展筋群に等尺性収縮が要求されて、血圧を上昇させることにつながったと考えられる。それに伴ってRPEも高くなったものと思われる。
【理学療法学研究としての意義】:高齢者に対して、運動を介入方法とする理学療法士にとって、杖をつくことの効果について検証することは、運動処方・ADL指導の面で意義が大きいと考えられる。
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© 2011 日本理学療法士協会
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