理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-410
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ポスター発表(一般)
障がい者陸上投てき競技用調節式スローイングチェア改良型および可搬性投てき競技用固定台の開発ならびにその有効性について
奥田 邦晴片岡 正教安田 孝志島 雅人上田 絵美松田 佳憲木下 堅策岡村 英樹
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抄録

【目的】障がい者の投てき競技は、座位での投球によるクラスもあることから、重度の車いす使用者にとって比較的参加しやすいスポーツ種目の一つである。さらに、専用の補装具の一つである投てき競技用スローイングチェア(以下、TC)を使用することで、種々の障害に応じたシーティングがとれることやルール上最高位の75cmのシート高からの投てきが可能となることから、選手の成績の向上が期待できる。調節式TCの開発については第42回日本理学療法学術大会で報告したが、その後、ルールの改正や選手たちからの意見や要望に基づき調節式TC改良型を作成した。この調節式TCの有効性について3次元動作解析結果も含め報告する。また、これまで国内での公式大会が開催される陸上競技場のトラックの素材はポリウレタン系トラック用舗装材が用いられていることが多く、TCや車いすをサークルの周囲に設置しているネットの基部を用いロープ等で固定するか、介助者が直接TCを支持するため固定力が弱く、投てき時にTC等が動いてしまい、競技結果に及ぼす負の影響は大きかった。これらの問題を解決すべく、新たに投てき競技用可搬性固定台を開発、作製し、障がい者陸上投てき競技環境の向上に大きく貢献できたため、併せて報告する。

【方法】我々は、約4年前から調節式TCの開発研究に取り組んできており、主に脊髄損傷(以下、SCI)および脳性麻痺(以下、CP)選手に試用し競技成績の向上に寄与している。また、投てき競技はTCを使用して行うものだという、選手の意識向上にも貢献し、普及してきている。調節式TC改良型は、以前報告した調節式TC(旧型)から、1.素材をスチールからアルミに変更、2.高低の調整をスペーサーからアジャスタブルに変更、3.バックレストの可動範囲の拡大、4.フットレストをTCベース内に設置の4点について改良した。調整式TCの有効性について、従来、競技に使用していた車いすと調節式TCでの投てき動作を6台のデジタルビデオカメラで撮影し、三次元解析装置ToMoCo Vm(東総システム社製)により解析した。さらに、一級建築士と共同で、木製で折りたたみ機能を有する可搬性投てき競技用固定台を開発、作製した。

【説明と同意】対象者には、調節式TCの有効性について説明を行い、データ集積協力への同意を得た。

【結果】ルールの変更に伴い、補装具の最前端がサークル前端を越えてはいけないため、必然的に身体位置が後方になり、投てき距離が減じてしまう結果となっていたが、フットレストをTCベース内に設置することで、投てきサークル内でTCを可能な限り前方に設置させることに成功した。調節式TC改良型の有効性について、6名のすべての選手において、競技成績が大きく向上した。各々の選手の障害、障害クラス、投てき距離等を以下に示す。選手A:SCI(Th10完全損傷), F54(障害クラス),円盤投げ24.38m(N.R:日本記録,2010),砲丸投げ7.0m(N.R,2010)。選手B:SCI(L1不全損傷), F56, 円盤投げ17.36m(N.R, 2010),砲丸投げ5.8m(G.R:大会記録,2010),やり投げ13.57m(G.R,2010)。選手C:SCI(Th6完全損傷), F55,砲丸投げ7.48m(N.R,2010)。選手D:SCI(Th7完全損傷), F54,砲丸投げ7.48m(N.R,2010),やり投げ14.46m(N.R,2010)。選手E:二分脊椎,F58, 円盤投げ22.0m(N.R,2010),砲丸投げ6.93m(N.R,2009)。選手F:CP, F34, 円盤投げ18.12m(N.R,2010),やり投げ25.74m(N.R,2010)。さらに、選手Cの投てき動作について、スタートからバックスイングまでの重心の矢状面上の移動距離が車いす(18.4cm)、調節式TC(35.6cm)と約2倍となり、体幹の積極的な関与が大幅な投てき距離の増加に繋がった。可搬性投てき競技用固定台については、本年度から正式に公式試合で使用され、その目的を果たすことができた。

【考察】調節式TCの活用が,選手の競技成績を大幅に向上させたことから、投てき競技におけるシーティングシステムの意義および障害に適応したフィッティングの重要性を明らかにすることができた。固定台も含め、今回のこれらの開発には、一級建築士や車いす製作者とチームを組んで臨んでおり、障がい者スポーツ分野における、補装具の重要性とともに、チームアプローチの必要性について再認識できた。

【理学療法学研究としての意義】理学療法士による運動学的考察を加えることで、より最良なTCのセッティングを行え、競技成績の向上につながった。また、TCを特別支援学校や小児医療施設等に設置することで、重度障がい者のスポーツを通した社会参加を促すことが可能となる。

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© 2011 日本理学療法士協会
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