理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-411
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ポスター発表(一般)
地域在住成人女性における膝痛・腰痛有無と運動機能,生活動作の関連
小林 量作佐藤 美和子地神 裕史古西 勇椿 淳裕佐久間 真由美今西 里佳
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キーワード: 介護, 関節痛, 予防
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抄録

【目的】
要介護状態になる原因の第4位関節疾患,5位転倒・骨折であり,これらを運動器の障害ととらえる.運動器の障害のなかで膝痛,腰痛などの関節痛は生活動作を阻害し,運動機能低下に影響すると考える.厚生労働省の推計値では,自覚症状を有する者は,変形性膝関節症が約1000万人,変形性腰椎症が約1000万人,潜在的な患者(X線診断)は,約3000万人と約3300万人と推定されている.特に女性の変形性関節症の罹患は男性よりも高く,女性の関節痛予防対策が急がれる.本研究の目的は,市町村の介護予防サポーター養成教室(以下,養成教室)に参加した成人・高年女性の関節痛と運動機能,生活動作の関連について検証することである.
【方法】
対象はN市の養成教室に参加した女性42名である.年齢は43歳~78歳,平均66.2±6.9歳である.対象者は養成教室への自発的申込者であり,全員が支障なく日常生活をおくっている.養成教室は事前・事後の体力測定および6回の養成講座より成り,今回は事前の体力測定データを使用した.データは,個人の属性,体格,片足立ち,握力,Timed Up & Go,ジャンプ時の下肢筋パワー,膝関節伸展筋力,足趾踏み力である.アンケート項目は関節痛の部位,生活動作(関節痛の有無及び自己効力感),休まず歩ける距離,人との交流である.統計的解析は対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定,カイ二乗検定を用いた.p<0.05を有意差ありとした.
【説明と同意】
本調査は新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を受け,参加者全員から書面による同意を受けた.
【結果】
1.関節痛(重複回答)は膝13名(31%),腰9名(21%),肩7名(17%),股2名(5%),首5名(12%),他3名(7%)であった.この内,膝痛,腰痛が重複したものは4名であった.
2.次の動作時に関節痛がある者は,正座,あぐら座19名(45%),床から起立・着座14名(33%),階段昇降13名(31%),重い物を持つ9名(21%),椅子から起立・着座8名(19%),平坦歩行5名(12%),睡眠をさまたげる痛み4名(10%),洗面時のかがむ姿勢2名(5%),衣服の着替え4名(9%)であった.
3.動作時に腰部・下肢(膝,股)痛のない者(n=23),ある者(n=19)に分けて体格,運動機能,生活動作を比較した.その結果,年齢(痛みのない者65.3歳,痛みのある者66.7歳,以下同順),身長(152.0cm,153.7cm),体重(53.6kg,56.6kg),BMI(23.1,24.0),片足立ち右(47.8秒,41.9秒),片足立ち左(47.4秒,40.1秒),握力左右平均(24.9kg,25.9kg),Timed Up & Go(4.93秒,5.13秒),下肢筋パワー(27.6Wkg,26.4Wkg),膝関節伸展筋力,足趾踏み力のいずれも有意差を示さなかった.有意傾向を示した生活動作は「階段を上るのに手すりが必要である」(p=0.056)だけであった.
4. 動作時に腰部・下肢痛の無い・少しの痛みの者(n=11)と中程度以上の痛みの者(n=31)で分けた場合,有意差を示した生活動作は「階段を上るのに手すりが必要である」(p=0.006),「やや重い仕事が困難である」(p=0.095),「椅子からの起立・着座(自己効力感;転ばない自信)」(p=0.011)であった.
【考察】
本養成教室参加者は,住民を対象とした参加募集に応じた者でもともと積極的な意識を持った集団であると考えられる.そのため,60歳代と“若く”,日常生活に支障なく,TUGも速い元気成人・高年者といってよい.それでも,膝痛,腰痛の自覚症状を持つ者は45%であった.このことは,元気成人・高年女性にとっても関節痛が問題となる可能性を示している.また,関節痛が出現する生活動作は,正座,床から起立・着座,階段昇降など和式生活や昇降動作であり,これらの動作が膝関節・腰部に負担をかける動作といえる.関節痛の有無と運動機能との明確な関連が示されなかったが,対象者の運動機能が高いことが影響したと考えられる.本研究は関節痛予防の予備的研究であり,対象者のバイアスや対象数が少ないことよる制約があることを記しておく.
【理学療法学研究としての意義】
女性の関節痛予防対策は,対象者が多く,生活動作に影響し介護予防の視点から喫緊の課題である.関節痛予防対策の基礎データとして関節痛と運動機能,生活動作との関連について検証することは重要であり,本研究はその予備的研究として意義あると考える.

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© 2011 日本理学療法士協会
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