理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-427
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ポスター発表(一般)
パーキンソン病に対する姿勢改善運動プログラムの有効性を検討した一症例
宮﨑 武野谷 優早川 亮高橋 育代上野 友紀小林 恵渡邉 澄子島津 健吾庭屋 和夫河野 奈美阿部 和夫
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抄録

【目的】
我々は、河野らが第44回日本理学療法学術大会において発表した、自己身体認識向上と姿勢改善を目的として開発した、パーキンソン病に対する姿勢改善運動プログラムを実施した。河野らは、週に1回の姿勢改善運動プログラムを8週間実施し、参加したパーキンソン病患者の約半数においてUnified Parkinson’s Disease Rating Scale(以下UPDRS)得点が改善し、姿勢や非運動症状でも改善が見られたと報告している。
今回、姿勢改善運動プログラムを1年間にわたり実施した症例について、同プログラムの長期的効果について検討した。

【方法】
姿勢改善運動プログラムは、パーキンソン病患者に見られる姿勢障害など特有の症状を考慮して構成しており、全ての運動を椅子座位にて安全に行うことが出来る。さらに、椅子の背もたれと下部胸椎の間にボールを当て、姿勢を意識しながらゆっくりと行うことができるという特性があるため、高齢者や重症者でも無理なく運動を実施できるという利点を有している。
対象は78歳男性、Hoehn-Yahrのstage2のパーキンソン病患者である。従来から行なっていた週1回の個別運動療法に、姿勢改善運動プログラムを1回30分追加して行なった。運動を正しく習得するために、最初の8週間は毎週1回の姿勢改善運動プログラムを指導し、その後は月1回の姿勢改善運動プログラムの指導を1年間にわたり、自宅での運動を実施してもらった。
評価項目は、写真による姿勢の評価、UPDRS、自主トレーニング回数とした。また、自己記入式調査票を用い、やる気、うつ及び疲労に関する非運動症状も評価した。評価は、初回時、8週後、1年後に行なった。

【説明と同意】
本研究は、医療法人ガラシア会倫理委員会の承認を得て実施した。研究協力症例に対しては、事前に本研究の目的と方法および自由意思による同意と撤回の自由を書面にて説明し、同意を得て実施した。

【結果】
UPDRSの総得点は、初回時45点、8週後34点と改善し、日常生活動作と運動検査の項目において改善を認めた。1年後はさらに30点に改善し、日常生活動作と運動検査に加え、知能行動気分の項目においても改善を認めた。
姿勢は、8週後で改善を示し、1年後も改善した姿勢を維持できた。
非運動症状に関しては、8週後でいずれのスコアも大きな変化を認めなかったが、1年後でやる気スコアのみ改善が見られ、うつスコアに変化はなく、疲労のスコアは悪化した。

【考察】
河野らは、8週後にUPDRS得点が改善し、特に日常生活動作において改善したと報告している。そして、姿勢においても改善が見られ、非運動症状においてはやる気、うつ及び疲労は半数以上で改善したと報告している。本症例においても、UPDRSの日常生活動作の項目に加え、運動検査の項目と姿勢においても改善を認め、ほぼ先行研究と同様の結果が得られた。特に姿勢の改善が得られた要因として、今までの個別運動療法においては、パーキンソン病特有の症状に対する配慮が不十分であり、指示のみに従った運動が実施されていた。しかし、本症例は自分自身で姿勢を十分意識することで、自己身体認識能力の向上が図れ、個別運動療法では見られなかった効果が得られた。さらに、自己身体認識能力が向上し姿勢が改善したことにより、UPDRSにおける日常生活動作や運動検査の項目においても改善を認めたと考える。
非運動症状は、8週後ではすべてのスコアで変化がなく維持できていた。1年後においては、うつスコアは変化なく維持できていたが、やる気スコアは改善し、疲労のスコアは悪化した。その要因として、やる気の向上に伴い活動性が高くなったが、その活動性に見合った持久力がないため、相対的に疲れを感じやすくなったと考えた。今後、持久力を向上させるプログラムを追加することにより、疲労のスコアが改善し、更に活動性の向上を目指したい。
今回は、1症例のみの検討であるが、姿勢改善運動プログラムは、自己身体認識能力を向上させることで、日常生活において姿勢を意識する習慣がつき、それによってパーキンソン病特有の症状の進行を遅延させる可能性があり、有効的なプログラムと考え、さらに多数例での検討を行う予定である。

【理学療法学研究としての意義】
姿勢改善運動プログラムを実施することで姿勢の改善が促されると、患者の生活の質の向上や、転倒による二次的障害の軽減による医療費削減などが期待されると考える。また、パーキンソン病特有の症状などを考慮する理学療法開発への啓示ともなる研究と考えた。

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© 2011 日本理学療法士協会
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