理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-100
会議情報

口述発表(特別・フリーセッション)
介護予防一般高齢者事業おける参加継続,中断の要因
浅川 康吉遠藤 文雄山口 晴保
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】介護予防一般高齢者事業「運動器の機能向上」は、地域在住高齢者に幅広く参加を呼び掛け、申込者に「運動器の機能向上」プログラムを提供し、何回かの指導を経て参加者の自主活度化を促すプロセスをとるものが多い。このプロセスのなかには、参加申込をしたものの途中で参加しなくなる人々が存在する。本研究の目的は参加継続あるいは中断に影響する要因を明らかにすることである。
【方法】群馬県藤岡市で介護予防一般高齢者施策「鬼石モデル」として24地区で筋力トレーニング教室を開催した。参加者募集は行政と老人クラブなどを通じて行政区を単位として行われ、プログラムには膝伸展や股外転など10種類の体操で構成された「暮らしを拡げる10の筋力トレーニング」を提供した。本研究への参加に同意したのは322人で、このうちGeriatric Depression Scale (GDS15)の得点が5点以上でうつ傾向が疑われた人と整形外科通院中で参加/中断にかかりつけ医の意向が影響する可能性がある人の計45人を除いた277人を対象とした。参加継続者と参加中断者は事業開始後3ヶ月間の参加頻度により群分けした。参加開始後3ヶ月間、週1回の頻度を基準に参加率80%以上を参加継続群、それ以外を参加中断群とした。参加中断群の実態は当初数回参加し、その後は来なくなるというものであった。参加継続群と参加中断群の比較は教室開始時のデータを用いて行った。項目はTimed Up & Go test(TUG)(秒)、Fall Efficacy Scale(FES) (点)、年齢(歳)、性別、外出頻度、通院の有無、転倒歴、老研式活動能力指標(点)とした。統計学的解析は単変量解析としてデータの性質に応じてχ2検定、対応のないt検定、Mann-Whitney 検定を行った後、従属変数を参加継続群/参加中止群、単変量解析で有意な差を認めた項目を独立変数に投入する多項ロジスティック回帰分析(変数減少法)を行った。有意水準は多項ロジスティック回帰分析における独立変数の取捨選択は10%未満、変数減少法における独立変数の採用は5%未満とした。
【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守して実施した。研究の趣旨説明はトレーニング指導にあたる理学療法士が行った。データ収集は事業スタッフが主となって行い、データ提供に関する同意は署名により得た。
【結果】参加継続群は187人(67.5%)、参加中断群は90人(32.5%)であった。参加継続群と参加中断群との間で有意な差を認めたのは(以下、数値は参加継続群vs参加中断群の順で記載)、年齢(73.4±4.8歳vs74.9±5.3歳)、性別(男性の割合25.7%vs38.9%)、通院の有無(有の割合72.2%vs 62.2%)、外出頻度(2-3日に1回の外出者の割合27.3%vs 16.3%)、TUG(7.3±1.6 vs 7.7±1.9)、FES(37.1±3.5vs 36.0±4.3)であった。転倒歴と老研式活動能力指標(点)には有意な差を認めなかった。多項ロジスティック回帰分析において参加継続群を参照カテゴリとする参加中断群のオッズ比(OR)が有意な値を示したのは、年齢(80歳以上に対する70-74歳のOR=0.357, CI:0.162-0.786)と性別((女に対する男OR=2.119 CI:1.186-3.786)、通院の有無(無に対する有のOR=0.557,CI:0.315-0.984)、FES(40点満点対する33点以下のOR=2.264,CI:1.121-4.572)であった。
【考察】「鬼石モデル」では男性は参加中断に傾きやすいと思われる。各地の介護予防事業で女性に比べ男性参加者が少ないことが指摘されており「鬼石モデル」も同様であった。年齢は若いほうが参加中断しにくく、転倒倒予防に対する自己効力感が低いと中断しやすくなるという現象は、「鬼石モデル」では若く元気な高齢者が主役となり、80歳以上の人や自己効力感の低い人にとっては参加しにくい状況があることを示唆している。通院有は血圧管理などを目的とする受診が主と思われ、本研究対象者では却って健康増進意識を高める効果が生じている可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】理学療法士には介護予防事業参加申込者を増やす普及啓発と、申込者に参加を継続させ行動変容を促す能力とが求められる。しかし前者に比べ後者に関する研究は少ない。本研究は「鬼石モデル」に関する分析であり結果の汎用性には限界があるが、後者の知見として有用である。
著者関連情報
© 2011 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top