抄録
【目的】
Berg Balance Scale(以下BBS)は高齢者のバランス能力の評価法として広く用いられると共に、その有用性が報告されている。しかし、テスト項目が多く、評価に時間がかかり、使いにくいという意見もある。
そこで今回、臨床上簡便な立位での上体そらしを用いて、立位バランスの機能を評価する新たな方法を考案し、BBSとの相関関係からその有用性について検討したので報告する。
【方法】
対象は当院デイケア利用者の内、歩行レベルが監視以上で指示理解が可能な20名を対象とした。なお、対象者の疾患内訳は脳血管疾患11名、パーキンソン病4名、多系等萎縮症2名、平均年齢は66.9±21.9歳であった。
立位での上体そらしの測定は前方で両上肢を組んだ静止立位から、安全性を確認した上で、上体そらしを行わせるものとした。また、この時の静止立位および立位での上体そらし姿勢を矢状面からデジタルカメラで撮影した。
マーカーは、肩峰、上前腸骨棘、膝関節前後中央部、外果最大膨隆部へ貼付し、体幹の傾きは肩峰と上前腸骨棘を結ぶ線、下腿の傾きは外側膝関節中央部と外果最大膨隆部を結ぶ線をとした。立位での上体そらしの測定には、下腿の長軸に対しての体幹の傾き角度を基準とし、静止立位からの偏位を求めた。また、脳血管疾患患者においては、非麻痺側で計測を行った。
BBSの計測はBergらの示す方法に従い測定を行った。
統計処理はピアソンの相関分析を用いて、有意水準を5%未満とし各項目の関連性について明らかにした。
【説明と同意】
全対象者およびその家族に対して本研究の目的、方法などについて説明し、同意が得られた上で検査を実施した。
【結果】
立位での上体そらしの角度とBBSとは有意な相関関係を認めた。【r=0.88,P<0.01】また、BBSの下位8項目を抽出した簡易BBS【移乗・閉脚立位・リーチ動作・360°回転・継ぎ足・振り向き動作・ステップ動作・片脚立位】とも立位での上体そらしは有意な相関関係を認めた。【r=0.88、P<0.01】
【考察】
BBSの測定に関しての問題解決のため、現在その項目を限定した簡易BBSの開発、またその有用性に関しての検討がなされている。しかし、バランス検査は重複する検査を行うことでその危険率を高めることができるため、種々の検査項目を実施する必要がある。
訪問リハビリテーションやデイケアなどの慢性期では検査に時間を要することは簡単ではない。そこで、日々の臨床のなかで、治療後の効果判定やBBSや簡易BBS測定の代替として特別な検査機器を用いない方法で簡易的に使用できる指標が必要となる。
今回、立位での上体そらしをデジタルカメラで測定するという簡易な方法がBBSと有意な相関関係にあることが示唆された。
これによりバランス評価を行う際に、BBSの検査頻度を3ヶ月や6ヶ月に一度にし、代替として日々の治療後や、1ヶ月ごとに立位での上体そらしを計測することで、バランス評価を簡便にすることで患者および検査者の負担を軽減することができると考える。
今後は、立位の上体そらしの改善がBBSと相関があるのかを含めて検討を行っていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法において、評価は大変重要であるが、日々忙しく働く理学療法士にとって、単位の取れない評価に時間を要することは難しい。しかし、臨床上バランス能力を評価すること、エビデンスに基づいた理学療法を提供することは、理学療法士の仕事にとって不可欠な要素である。
その中でBBSは、特別な検査機器を用いずに行え、それに加えその有用性が報告されている簡便な評価法である。しかし、BBSは14項目からなり、おおよそ評価に15分~20分要する。望月らは、臨床場面におけるバランス評価に求められることの一つに測定時間が短いことを挙げており、10分以内が望ましいと報告している。立位での上体そらしは、計測に2分もかからず、本研究より、BBSと強い相関関係を認めた。これにより、立位での上体そらしは、理学療法士にとって短時間で簡便にバランス機能を評価する方法として有効であると言える。