理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-450
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ポスター発表(一般)
高齢者の両側大腿部に施行したEEMT法(電気的遠心性収縮筋力トレーニング)の持続歩行距離改善効果
single blind法を用いた検討
砂川 伸也田口 成美子鈴木 康裕木下 悟
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抄録
【目的】
理学療法における治療分野の一つに電気刺激療法がある。我々は、新たな電気刺激療法として電気的遠心性収縮筋力トレーニング(以下EEMT法)を考案した。このEEMT法は、河戸らの報告により若年健常者において著明な筋力増強効果が認められている。我々は前回の研究報告にて、このEEMT法を高齢者に実施した場合では筋力増強効果の可能性が低く、6分間歩行距離(以下6MWD)や筋持久力の向上効果が認められる可能性を示した。しかし前回は研究デザインについて制限因子が存在し、特に片脚のみのEEMT法の介入という不備が考えられた。さらに対照群を置いていなかったためEEMT法のプラセボ効果が疑われ、また対象者における活動性の属性が統一されていなかったことも制限因子として挙げられた。本研究の目的は前回の制限因子を解除し、研究デザインの強化を行いEEMT法の6MWD向上効果について検討することである。
【方法】
当院通所リハビリテーションを利用する65歳以上の高齢者10名(男性6名、女性4名、平均78.5±8.5歳)を対象とした。EEMT法は、大腿部前面に電気刺激を行い膝伸展運動を誘導し、膝伸展位から随意的な膝屈曲運動を行い大腿四頭筋の遠心性収縮を促す方法である。研究デザインはRandomized Controlled Trial(以下RCT)を用い、本法実施群を介入群、本法非実施群を対照群とし、それぞれの群に5名づつ無作為に割り付けた。さらに対照群には、通常の電気刺激のみを行うことで被検者に対してsingle blindをかけ、研究自体のプラセボ効果を打ち消した。また、介入群では確実な施行を目的に片脚づつ20分、計40分間行い、対照群は両脚同時に20分間実施した。電気刺激条件は、電極を片脚につき大腿直筋部・内側広筋部の2か所に、そして周波数20Hz、間歇通電法(on-off:5秒-10秒サイクル)、2回/週に設定した。評価項目は6分間歩行試験(以下6MWT)を使用し、介入期間に関しては前回研究にて有意な改善が認められた8週間を最大介入期間とし、その間の4、6週目にも評価を実施し6MWDが有意に改善し次第、介入終了とした。また、介入終了後2週間のコントロール期間を設定し、6MWDの変化を観察することとした。
統計処理方法は、群内における6MWDの比較にWilcoxonの符号付順位検定を用いた。差の有意水準は5%とし、統計解析にはWindows版SPSSver16.0を使用した。
【説明と同意】
対象者には、EEMT法の実施および6MWT評価に関する手順を説明し、研究目的、研究方法、倫理的配慮、研究結果の報告に関することを同時に説明し、その上で書面にて同意を得た。
【結果】
介入前から10週目までの全5回の評価を行った。介入群は、8週目で6MWDの中央値歩行向上距離が91m を示し、有意な改善を認めた(p<0.05)。対照群はいずれの期間においても有意な変化を認めなかった。また、介入群において8週目が結果的に6MWDの最高値であり、その後2週間のコントロール期間終了時、すなわち10週目で中央値歩行距離は47m低下した。
【考察】
前回研究では片脚のみに施行し有意な改善効果を得ることができたが、今回は両脚に実施しその結果、本研究でも有意な6MWD向上効果が認められた。その上、前回の改善距離を大幅に上回り、結果的に諸家らが報告した6MWDの臨床有効向上距離である54mも上回った。この要因としては本法を両脚に実施したことにより歩行パフォーマンス向上効果がより強く反映されたものと考えられる。さらに、2週間のコントロール期間後、6MWDが低下したことは、本法が6MWD向上に寄与していたことを支持するものと考えられる。今回の研究では対象者を通所リハビリ利用者のみとし対象の活動性を一律にした。さらにsingle blind法を使用し、本研究の信頼性をより高める検討を行った。
今回の研究の制限因子としては、評価項目が6MWTのみであったため歩行距離向上の要因が明らかにされておらず、新たな評価が必要と考えられる。さらに本研究では介入対象者が5名と少数であることからサンプル数の増加が望ましく、また今回はsingle blind法を採用したが、さらに高い精度の検討を行うためにはdouble blind法を採用する必要があるものと考えられる。
EEMT法は、高齢者などの低体力者を対象とした場合、座位にて施行できるため訓練中に転倒する危険性は少なく、また安価な機器や簡便な方法を用いることから本法は臨床的な手法であると考えられる。また実施効果としても臨床有効向上距離を超えた効果を認めたことから本法は有意義な治療法であると言える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究にて、高齢者の両側大腿部に施行するEEMT法は持続歩行距離向上効果を認めた。本法は、介護予防などの分野において、高齢者の日常生活活動の向上の手段として今後応用できる可能性があるものと考えられる。
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© 2011 日本理学療法士協会
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