理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-453
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ポスター発表(一般)
全人工股関節置換術後早期におけるマイクロカレント療法の有効性
井上 貴仁釜田 良介今石 綾子草場 公平松本 沙織佐々木 信行加藤 傑川原 早苗
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抄録

【目的】
マイクロカレント療法(以下MENS)は,細胞,組織レベルでの損傷電流の発生を補完,促進し,ATPの生成,タンパク質の合成の促進が効果として予測され,さらに,電子の作用による血流改善や,発痛物質,疲労物質の分解の促進による鎮痛効果も期待されている。近年,スポーツ分野において,受傷後早期より,MENSを行うことで損傷部位の治癒を早め,早期の競技復帰が可能になるケースの報告がなされている。しかし,臨床においては術後早期の研究報告は少ないのが現状である。そこで本研究は,当院における全人工股関節置換術(以下THA)術後早期より,MENS施行による疼痛,筋力の変化を評価し,治療効果を検討することを目的とした。
【方法】
対象は,平成22年4月から,平成22年10月までに当院において後側方アプローチよりTHAを受け,術後翌日より全荷重を許可された症例17例(男3例,女14例,平均年齢71.3歳)であった。この症例を無作為にMENS実施群(男2例,女7例,平均年齢74.0歳),非実施群(男1例,女7例,平均年齢68.3歳)と2群に分けた。アプローチ方法は,伊藤超短波のES520を用い,術後翌日より,理学療法アプローチ後,創部を挟むようパットを貼り,周波数0.3Hz,強度は50μAにて20分間毎日施行した。評価は,術前,術後より1週,2週,3週,4週と,1週間ごとに4週間測定し,各週の評価項目として,疼痛,膝関節伸展筋力,股関節外転筋力を測定した。疼痛は,VASにて運動時痛,歩行時痛を術前比,膝関節伸展筋力は,ミナト医科学株式会社のコンビットを用い,膝関節屈曲角度60度での等尺性収縮,股関節外転筋力は,日本メディックスのマイクロフェットを用い,対側下肢を固定した状態で等尺性収縮にて測定し,体重比にて比較検討した。なお,膝関節伸展筋力,股関節外転筋力は,術側,非術側ともに測定した。統計学的検討には,分散分析(Scheffe法)を用い,危険率5%をもって有意とした。
【説明と同意】
全対象者に対してヘルシンキ宣言に基づき,本研究の目的,治療効果,方法などを十分に説明し,同意を得ることができた症例に対して実施した。
【結果】
疼痛においては,運動時痛,歩行時痛ともに術前,術後各週において実施群と非実施群に有意差を示すことが出来なかった。しかし,運動時痛においては術後1週より,実施群の方が非実施群よりも低値を示す傾向が見られた。膝関節伸展筋力は,術側,非術側ともに2群間に有意差を示すことが出来なかった。股関節外転筋力は,非術側では,実施群と非実施群の各週間の比較において有意差を示すことが出来なかった。しかし,術側の股関節外転筋力は,各週において,実施群が非実施群よりも高値を示していた。特に術後1週,2週において実施群が非実施群よりも高値を示し,術後2週においては2群間に有意差が示された(P<0.05)。
【考察】
疼痛においては2群間に有意差を示すことが出来なかったが,実施群の方が低値を示す傾向にあった。これは,症例自身が実施群か非実施群か判断できる状態であった為,プラセボ効果を否定することは出来ないが,MENSによる鎮痛効果も発揮されていたのではないかと考えた。膝関節伸展筋力は,2群間に有意差を示すことは出来なかった。また,股関節外転筋力の術前値も2群間に有意差を示すことは出来なかった。このことから,今回比較した2群の筋力に元々差がなかった2群を比較していたであろうと考えた。さらに股関節外転筋力においては,術後2週で有意差を示すことが出来たが,これらはMENSによる鎮痛効果に加え,低下した細胞の活動を高める働きがあったのではないかと考えた。また,術後早期からのMENS施行により,筋活動の活性化の効果が期待された。
【理学療法学研究としての意義】
近年,THA術後の症例は,早期からの歩行,ADL獲得が目標とされているが,筋繊維などの軟部組織の侵襲を余儀なくされ,疼痛による術後廃用や,筋力低下を起こしてしまう場面がみられる。今回,術後早期からの疼痛軽減,筋力回復を目的としたMENSを施行したが,特に術後2週頃までの早期において,筋力回復に対するMENSの有用性を見いだせたのではないかと思われた。今後さらにMENSの設定や,パットの位置などの通電方法を再検討し,術後早期からの早期回復に向けたアプローチにつなげていきたいと考えている。

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© 2011 日本理学療法士協会
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