抄録
【目的】
1965年に始まった青年海外協力隊(以下JOCV:Japan Overseas Cooperation Volunteers)はこれまで3万5千人以上の隊員が88カ国に派遣されており,理学療法士の派遣数は2010年9月現在58カ国345名である.JOCVの現場ではさまざまな専門職によって障害者支援が行なわれており,効果的な活動のためにはそれぞれの相互理解が重要となっている.そのため人材の育成や国際協力経験者によるネットワーク構築の必要性は高い.それらを目的にJOCVリハビリテーションネットワークは設立され,2010年10月で2年を迎えた.本稿はJOCVリハビリテーションネットワークの現時点における活動を整理し,意義や課題について検討を加える.
【方法】
設立(2008年10月)から2年間の活動内容,参加者の活動状況を分析し,活動の意義と今後の展望,課題について考察する.
【説明と同意】
厚生労働省のガイドラインの「連結不可能匿名化された情報のみを資料として用いた研究は倫理委員会の審査を必要としない」に準拠している.
【結果】
2010年10月31日現在のJOCVリハビリテーションネットワーク会員数は77名(うち正会員43名,準会員34名)である.協力隊経験者の派遣国は合計33カ国であり,その派遣年度は昭和58年度から平成22年度である.メーリングリスト参加者は148名.設立の経緯は2008年10月にJOCVのPT・OTのOV(Old Volunteer)会として設立総会を行い,JOCV経験者を中心に活動が開始された.その後JOCV経験者だけではなく国際協力に興味を持っている者を会員とすることとし,会の名称を「JOCVリハビリテーションネットワーク」とした.定期的な活動としては,年1回の総会開催,国際協力推進活動への参加,セミナー等の企画,ニュースレターの発行,ホームページやメーリングリストを通じての情報の共有,発信を行っている.実績としては,2009年8月にはシンポジウムを開催し74名の参加者が集まった.「国際協力における障がい者支援のネットワーク-より良い包括的支援を目指して-」をテーマに,作業療法士,言語聴覚士,介護福祉士,幼稚園教諭,当事者派遣経験者,災害後の障害者支援経験者など多分野からシンポジストを迎えた.また国際協力推進活動として協力隊まつり(2008年・2009年・2010年)とグローバルフェスタ(2009年・2010年)に出展した.ニュースレターは第3号まで発行され,本会の活動報告に加え,派遣前訓練の報告,JOCVや専門家の活動報告などが行われている.東京2009年アジアユースパラゲームズには語学ボランティアとして3名が大会中選手団に帯同した.第2回総会では,災害に対するリハビリテーション職種の支援活動について問題提起がなされ,有志による活動が開始された.災害部は定期的に災害支援研究会を開催し,WFOT参加者との情報共有,ACPTでの学会報告が行われた.
今後は今まで我々が経験してきたことを有効に活用できるようにするため,国際協力体験集の刊行を企画している.さらに国際協力に興味がある者を対象とした短期国際協力プロジェクトやスタディーツアーの企画・実行を視野に入れ活動を進めている .
【考察】
設立から2年,他職種との連携を模索しながら,シンポジウムの開催,イベントへの参加を継続している.また災害支援分野でのリハビリテーション職の協力について研究をすすめるなど,新たな取り組みをはじめている.
現在直接的な海外での国際協力活動は行っていないが,準会員には今後JOCVとなる者もおり,活動中・帰国後も情報共有できる体制となりつつある.専門家として活動している者の中には,就業継続したまま海外で活動する者,離職し活動する者もおり,情報交換を行っている.国際協力の入り口に立つ者から専門とする者まで在籍することで,情報交換が活発になされている面があろう.
今後はキャリアパスや,NGOとの連携についても協議することで,国際協力における障害者支援についてどのように関わりをもつかを考えていく必要があるであろう.
【理学療法学研究としての意義】
国際協力の先行研究をみると,個人の活動報告やCBRの報告はみられるが,他職種と連携した国内での国際協力活動について報告する例は少ない.また本研究は国際協力経験者という人的資源の活用についての一報告でもある.国際協力における障害者支援分野のニーズは今後とも高まっていくことが予想されるため,本会の活動を分析し,活動の課題を報告することは,意義あることと考える.