理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PF1-058
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ポスター発表(特別・フレッシュセッション)
新人理学療法士における危険予知トレーニングの有用性を考える
藤原 充内山 恵典鈴木 啓介
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抄録
【目的】
一般的に、リスクマネジメントは、リスクを評価し、リスク対策を実施し、リスク対策をチェックして、リスク対策を改善することとされている。しかし、第一段階のリスクの評価は、リスクの存在を把握する場合に評価できるものと考えられ、危険を事前に予知して、仕事を進めていくことが重要である。特に、経験の浅い理学療法士にとって、どこにリスクがあるのかを把握することは、非常に困難であると言える。また、「理学療法評価」を行うことを目的に、ベッドサイドに足を運ぶ場合、患者への評価方法や今後の方針を最優先に考えるために、患者の全体像の把握が抜け落ちるといったこともある。本研究では、患者へのアクセス途中に的を絞り、危険予知トレーニングを行い、新人理学療法士の視点から考察を加えて報告する。
【方法】
経験の浅い(1から2年目)当院理学療法士5人を対象に、「これから理学療法を行う」ことを前提とし、日常臨床で遭遇する場面の写真2枚を提示する。2枚の写真については、1枚目は、廊下から病室に入るところの写真とした。2枚目は、集中治療室での人工呼吸器やモニタ、チューブ類が装着されているベッドサイドの写真とした。そして、10分間で可能な限り多くの「考えられる危険因子」、「これから必要と思われる情報」を箇条書きにて列挙させた。列挙された内容を5人での20分間のディスカッションにて提示し、写真ごと2回行った。最後に、ディスカッションの効果について、Visual Analogue Scale(VAS;「まったく効果がなかった」から「とても効果的だった」)にて回答させた。また、列挙された数を比較すると共に、列挙された内容について、グルーピングして考察した。
【説明と同意】
対象となる理学療法士には、紙面および口頭にて、本研究の趣旨を説明し、十分な同意を得た上で行った。また、提示する写真には、患者は掲載されていないものを使用した。
【結果】
危険因子については、1枚目が4から9個(合計28個、平均5.6個)が挙げられ、2枚目は4から8個(合計29個、平均5.8個)が挙げられた。また、これから必要な情報については、1枚目が7から16個(合計53個、平均10.6個)が挙げられ、2枚目は16から26個(合計78個、平均15.6個)が挙げられた。ディスカッションでは全てが提示され、VASの結果は、ディスカッション前6.7cmからディスカッション後9.2cmと良好な結果を示すことができた。内容について見ていくと、1枚目については、1.転倒・転落に関するもの、2.患者の状態について、3.環境設定について、が挙げられた。2枚目については、1.生命管理について、2.装着されている機器等について、3.患者情報について、が挙げられた。
【考察】
危険予知トレーニングは医療現場に限らず、様々な分野で訓練されているが、理学療法場面についての報告は少ない。また、忙しい臨床の中では、起こった事象や事故についての考察はできても、起こり得る事故についての考察はできないことが多い。各個人が自覚した危険因子は、ディスカッションをすることで、気づきが多くなり、視野が広がるものと考えられた。これらの結果は、数値的に表現することは難しいが、各々のVASの結果から有効性が示唆された。そして、理学療法に繋げるために「どこに目を向け、何を見るか」という、情報収集の一部分として捉えることができたと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の今後の方針として、経験豊富なスタッフを含めた検討を行うことで、さらに視野を広げることである。また、日常的に写真を提示できるようにし、様々なディスカッションができるようにし、危険予知活動が行える環境を整えていくことが求められる。そして、最終的目標としては、危険予知トレーニングを行うことで、多くの危険予測因子が挙げられ、医療事故を減らすことである。本研究の意義は、リスク管理を行う目的のトレーニングとして、有用性が示唆されたことである。
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© 2011 日本理学療法士協会
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