抄録
【目的】
2000年度の診療報酬改定により亜急性期リハビリテーション病棟が新設された。2008年度改定では亜急性期入院管理料の見直しが行われ、一般病棟に比べて在院日数等の条件が緩和されたが、一般病棟での運営を行っている病院では引き続き厳しい現状である。一方で、集中的なリハビリテーション(以下、リハ)により在宅復帰を目指す回復期リハ病棟の重要性が高まっており、当院においても地域の中核医療を担っている現状で回復期リハ病棟の設立は重要と考えている。その為、当院においても回復期リハ病棟開設に向けた運営会議やリハ業務内容の見直し、リハスタッフの増員など様々な取り組みを行っている。そこで今回、平均在院日数・FIM(入退院時・利得・リハ効率)・自宅復帰率に着目して調査を行うことで当院リハ運営における現状把握と今後の回復期リハ病棟開設を視野に入れた上での課題を検討し、考察を加えてここに報告する。
【対象】
平成21年4月から平成22年3月までの期間に当院に入院された、廃用性筋力低下を除く脳血管疾患の患者89名。(男性45名、女性44名)
【方法】
対象患者の平均在院日数、FIM(入退院時・利得・リハ効率)、自宅復帰率に着目して調査を行う。
【説明と同意】
今回の研究を行うにあたり、ヘルシンキ宣言に基づきプライバシーの保護に十分配慮した上でデータベース化した。
【結果】
・平均在院日数は48.5日であった。
・入退院時FIMでは入院時FIMが59.9点、退院時FIMが68点、FIM利得では17.2点となった。
・リハ効率は35.7%であった。
・自宅復帰率では39.3%であった。
【考察】
当院では上記の結果に至るまでの取組みとして、患者重症度別でのクリニカルパス作成・運用、積極的な病棟訓練、充実したカンファレンスの実施、併設する老健施設や訪問リハによる継続リハの提供等を実施してきた。これらの取組みによって在院日数の短縮、入院早期から『できるADL』の獲得、自宅復帰に向けたフォローアップに努め、回復期リハ病棟開設後を見越したリハ業務・リハ運営における充実化を図ってきた。全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会:2001~2008年全体調査の経年集計報告書 2009によると、『回復期リハ病棟における脳血管疾患患者の平均在院日数は93.1日、入院時FIM:68点、退院時FIM:86.2点、FIM利得:18.1点、リハ効率:19.4%、自宅復帰率72.3%』であった。これらを当院の調査結果と比較した場合、(A)短期間のリハ提供にも関わらず全国と同等のFIM利得を上げており、高いリハ効率の値を示していること、(B)入退院時FIM・自宅復帰率においては全国の結果を大きく下回る、ということがわかった。(A)において、平均在院日数ではパスに順応した運営を行っていることや充実したカンファレンス等により早期に方向性の決定が行えることによる効果が大きいもの考える。FIM利得では、在院日数が短い為に入院早期から、できるADLの獲得など能力面を重点的に実施してきた結果であると考える(B)において、入退院時FIMと在宅復帰率の結果から、当院では重症患者が多く自宅復帰に直結するような実用性の高いADL能力の獲得まで至らなかったことが要因であると考える。当院における今後の課題としては、短い在院日数の中で如何に自宅復帰に直結した実用性の高いADL能力の獲得を実施していけるか、在宅復帰が困難な患者の目標達成や患者QOLの為のリハ運営・リハ内容の質の向上などが挙げられる。加えて、リハスタッフの介入のみではなく、他職種や家族の介入効果を含め、今後の検討が必要であると考える。さらに、回復期リハ病床は人口10万人に対して50床が必要と言われているが、当地域においては人口17万人で約50床が不足している状態である。そのような状況の中で回復期リハ病棟の開設の必要性は大きい。また、急性期~回復期~慢性期にかけて各々の施設間の連携が円滑に行い地域連携医療を提供していかなければならないと考える。現在、当院では理学療法士都城市郡ブロックにおいて地域連携会を発足し、毎月連携会を開催し他施設との連携を強め脳卒中地域連携パスの作成・運用を行っている。今後も連携会や研究会により病院間の連携を強め、連携機関を増やすことで地域密着型医療・リハの提供に努めていきたいと考える。
【まとめ】
当院では回復期リハ病棟開設を見越して様々な取り組みを行い、リハ内容・リハ運営の充実化を図ってきた。今後は今回の結果も踏まえて回復期リハ病棟開設に向けて更なるリハ運営・内容の見直しを行っていく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
回復期リハ病棟を開設する準備段階として現在のリハ能力を分析し、リハ運営に反映させていくことは患者に対し安心・安寧の理学療法を提供していく為に必要と言える。