理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OS3-080
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専門領域別口述発表
「理学療法における臨床能力評価」の開発と信頼性の検討
芳野 純臼田 滋
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キーワード: 継続教育, 評価尺度, 信頼性
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抄録
【目的】
教育において、どの程度学び・成長したかを確認するための評価は必須である。これは理学療法士資格取得後の継続教育に関しても同様である。しかし現状では、理学療法士の臨床能力を評価する評価尺度は存在しない。本研究の目的は、理学療法士の継続教育に活用するための「理学療法における臨床能力評価」の開発および、その信頼性を確認することである。
【方法】
評価項目は、先に実施した15名の職員指導経験者に対する自立した理学療法士の能力に関する質的研究の結果より抽出された、7個のカテゴリー(理学療法実施上の必要な知識・臨床思考能力・医療職としての理学療法士の技術・コミュニケーション技術・専門職社会人としての態度・自己教育力・自己管理能力)と50個のサブカテゴリーを参考に選定した。本評価は7つの大項目と53項目の採点項目で構成されており、53項目は、1~4点の4段階評価(合計53~212点)にて採点される。53項目以外に、全体の能力評価として評価対象者が理学療法士としてどの程度自立しているかに関して、Visual Analogue Scale(以下:VAS)による評価を追加した。調査対象は、関東圏内の6つの医療施設に所属する理学療法士とし、(1)資格取得後の経験年数が3年未満の職員(以下:被指導者)、(2)被指導者を主に指導している職員(以下:主指導者)、(3)被指導者に対して主指導者の補佐的に指導している職員(以下:副指導者)各30名、合計90名とした。被指導者は自己評価を、主および副指導者は被指導者に対する他者評価を実施した。被指導者と主指導者に関しては、1週間の期間を空けて、計2回評価するよう依頼した。調査結果の解析は、被指導者・主指導者の検者内信頼性および、主指導者と副指導者の検者間信頼性を、項目毎にカッパ係数にて一致率を算出した。同様の組み合わせで53項目の合計点数およびVASを、級内相関係数(Intraclass correlation coefficients:以下ICC)にて算出した。さらに、VASと合計点数をピアソンの積率相関係数にて算出した。
【説明と同意】
本研究は群馬大学医学部疫学研究に関する倫理審査委員会より承認を得ている。本研究は無記名にて実施したため、対象者に対して書面にて研究内容を説明した。研究への同意は、施設管理者のみ同意を得て、対象者個人に対して同意書作成はせず、研究への協力をもって同意を得たものとした。
【結果】
被指導者の経験年数は、1年目13名・2年目7名・3年目10名であり、平均経験年数は1年8.1ヶ月、主指導者の平均経験年数は5年4.5ヶ月、副指導者の平均経験年数は7年9.1ヶ月であった。各項目の検者内のカッパ係数による一致率は、被指導者は0.45~0.86、主指導者は0.46~0.88であり、53項目全てが中等度から高い一致率であった。検者間の一致率は-0.30~0.55であり、ほとんどの項目で低い一致率であった。本評価の合計点数のICCは、被指導者の検者内は0.93、主指導者の検者内は0.96であったが、検者間は0.26であった。VASのICCは、被指導者の検者内は0.97、主指導者の検者内は0.96であったが、検者間は0.31であった。合計点数とVAS相関係数は、主指導者r=0.91、副指導者r=0.85、被指導者r=0.77であった。
【考察】
解析の結果、項目により差はあるが、主指導者および被指導者とも検者内の一致率は中等度から高い結果となった。この結果より本評価は、項目単位においても中等度から高い再現性があると考えられる。しかし検者間は、ほとんどの項目で低い一致率となった。これは、全体の能力評価としてのVASの結果が示すように、被指導者に対する評価が、主指導者・副指導者間で相違がある事による影響が強いと考えられる。原因としては、副指導者は補佐的に指導しているため、被指導者に対して接する時間が少なく、十分に評価しきれていないことが考えられる。評価合計点と全体的な能力を示すVAS、は高い相関があり、本評価は指導者の全体的な評価を反映した結果が得られると考えられる。今後は、因子分析を行い、因子妥当性を調査する予定である。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法士の継続教育を充実させることは必須であり、そのためには到達目標とそれに準じた評価尺度が不可欠である。理学療法士に求められる能力は多岐にわたり、継続教育の場面では被指導者のどのような能力が優れており、どのような能力が不十分であるかを明確にする必要がある。本評価は、理学療法士の詳細な能力を評価するために開発しているものである。信頼性と妥当性を確認した後、本評価を実際に利用することにより、理学療法士の質の向上に貢献するものになると考えている。
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© 2011 日本理学療法士協会
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