理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
呼吸循環代謝応答における筋疲労課題の脳血流反応に影響を及ぼす要因の同定
石井 秀明西田 裕介
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キーワード: 疲労, 脳血流反応, 乳酸
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p. Aa0123

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抄録

【はじめに,目的】 近年,疲労は中枢と末梢の要因の相互作用によって生じると考えられており,疲労の捉え方が変化している。その捉え方の変化の中で末梢の器官・臓器からのフィードバックにより,疲労が生じると考えられている。疲労が身体の適応に必要であることを考慮すると,末梢の呼吸循環代謝応答の変化の中で疲労へ影響する要因を同定することはトレーニング効果を向上させるために重要であると考えられる。そこで,今回,筋疲労における呼吸循環代謝応答の中で脳血流に影響を与える要因を同定することを目的に検討を行った。【方法】 対象は,心血管系に関連のある疾患の既往のない若年健常男性11名(平均年齢20±1歳,平均身長170.9±3.7cm,平均体重61.0±5.9kg)とした。測定は,背臥位で5 分間の安静後,設定負荷強度で持続的な把握動作を120秒間実施した。設定負荷強度は最大随意収縮(Maximal Voluntary Contraction: MVC)の10%,30%,50%とした。測定項目は,筋電図計による積分筋電図・中間パワー周波数,血中乳酸濃度,血糖値,平均動脈圧,呼吸交換比,筋血流,脳血流とした。脳血流は,近赤外線分光法による光トポグラフィ装置ETG-7100(日立メディコ製)を使用し,3列×10行のプローブ(47チャンネル)を国際10-20法に定められたCzを中心に装着した。解析には,運動中の酸素化ヘモグロビン値を用いて,体性感覚領域を反映すると考えられる領域を関心領域とした。統計的検討は,筋疲労のポイントを同定するために,中間パワー周波数の運動開始時・30秒・60秒・90秒・120秒の前後5秒以内で安定した3秒間の値を用いて負荷強度間と時系列の二要因の比較に二元配置分散分析を行い,その後多重比較検定にて検討した。また,脳血流に影響を与える要因を同定するために,負荷強度ごとに脳血流を従属変数として,それ以外の測定指標を独立変数として重回帰分析を用いて検討を行った。値は運動終了30秒前から運動終了時の間に得られた平均値から安静時の平均値を引いた変化量もしくは変化率を用いた。尚,解析はSPSS 16.0 Japaneseを使用した。また,全て有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全対象者には,事前に実験の目的と方法を文面及び口頭で十分に説明し,参加の同意を得た。また,本研究のプロトコルは聖隷クリストファー大学研究倫理委員会の承認を得た。尚,血中乳酸濃度と血糖値の測定は,被験者自身が採血し,検者が測定を行った。【結果】 中間パワー周波数は繰り返しのある二元配置分散分析の結果より,交互作用は認められず,負荷強度〔F(2,20)=9.11,p<0.05〕と時系列〔F(4,40)=5.56,p<0.05〕の要因に主効果が認められた。また,多重比較検定の結果,30%MVCは運動開始と120秒値,50%MVCは運動開始と90秒値,運動開始と120秒値に有意差が認められた(p<0.05)。強度間には,10%MVCと50%MVCの間で有意差が認められた(p<0.05)。重回帰分析の結果,10%MVCは,適合する独立変数がなかった。30%MVCは血糖値が適合し,標準偏回帰係数は-0.646であった。50%MVCは血中乳酸濃度と血糖値が適合し,標準偏回帰係数はそれぞれ0.754,0.687であった。【考察】 中間パワー周波数の結果より筋疲労は30%MVCと50%MVCで生じ,50%MVCで最も生じたと考えられる。また,重回帰分析の結果,筋疲労が生じた30%MVCと50%MVCでは,代謝に関与する血糖値と血中乳酸濃度が影響する要因として抽出された。特に,乳酸は血糖よりも標準偏回帰係数が高いことから,乳酸が脳血流へ大きく関与すると考えられる。これは,求心性神経に作用することや,運動皮質の興奮性に関与するといった乳酸の特徴が関係すると考えられる。つまり,骨格筋の代謝の変化は脳へ疲労の情報を入力する役割を有することが示唆される。【理学療法学研究としての意義】 トレーニング効果を向上させるために疲労は阻害因子である。しかし,疲労を伴うことによってトレーニングに身体が適応し,トレーニング効果があらわれる。そのため,運動に対して身体を適応させる方法として,骨格筋の代謝を制御することは,効率よくトレーニング効果を引き起こすための重要な要因であると考えられる。よって,運動療法プログラムを立案する際には,骨格筋の代謝に着目してトレーニングを選択することが重要であることを本研究は示唆する。従って,本研究は運動療法プログラムの立案の際の基礎研究として意義があると考えられる。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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