理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 口述
最大負荷運動時の制限因子の検討
─ramp負荷とenduranceテストの比較から─
原田 鉄也山本 純志郎岡田 哲明田平 一行
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Aa0124

詳細
抄録

【はじめに、目的】 ramp負荷試験では漸増的に増加する負荷に対する身体の応答を反映し、ATやPeak Wattなどを算出することができる。一方、enduranceテストは、一定の高負荷において症候限界性まで実施するテストであり、運動持続時間を評価するテストである。先行研究ではトレーニング効果の反応性として、enduranceテストでは漸増負荷試験と比較し、運動効果の感受性が良いという報告がある。両テスト共に運動耐容能を評価するテストであるが、その特徴は十分に明らかになっていない。今回、両テストにおける呼吸・循環・筋酸素動態の特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は健常男子大学生16名(平均年齢21.9±0.8歳)とした。各被験者において自転車エルゴメータ(Corival,Load社)を用いてramp負荷試験とenduranceテストの2試験を実施した。その間、呼気ガス分析、循環応答、骨格筋酸素動態を測定した。なおエルゴメータの回転数は60rpmを維持させた。ramp負荷試験ではrest(安静)を3分間行い、運動は20Watt/minずつ負荷を増加させ、症候限界に至るまで運動を行った。その後、recover(回復)を3分間行った。enduranceテストではrest、recoverはramp負荷試験と同様に行った。また運動はramp負荷試験での最高の負荷率の80%(80%peak Watt)にて運動を行い、症候限界に達するまで運動を行った。運動の中止基準は、自覚症状・他覚症状・心拍数(目標心拍数85%HRmaxに達した場合)・血圧(250/120mmHg以上、血圧上昇不良、低下傾向)・修正Borgスケール(呼吸困難感、下肢疲労感が10に達した場合)・動脈血酸素飽和度(SpO289%以下)・回転数(60rpmを維持できない場合)とした。検査項目は呼気ガス分析装置(MetaMax3B,Cortex社):breath by breathにて、酸素摂取量(VO2)、二酸化炭素排出量(VCO2)、分時換気量(VE)を測定。PORTAPRES(FMS社):収縮期血圧(SBP)、1回拍出量(SV)、心拍数(HR)、末梢血管抵抗(TPR)を測定。NIRS-組織血液酸素モニター(BOM-L1TRM.オメガウェーブ社):還元ヘモグロビン(以下Deoxy-Hb)を測定。修正Borg scale:息切れ感、下肢疲労感の自覚症状を測定。解析は、運動終了直前の30秒間の平均値を解析に用いた。各指標の運動負荷試験間の比較は対応のあるt検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、すべての被験者に方法、目的、リスクについて説明し同意を得た。【結果】 換気指標ではVO2、VEに差はみられなかったが、VCO2がramp負荷で有意に高い(p<0.05)結果となった。循環指標では、SV、TPRには差は認められなかったが、HR、SBPがramp負荷試験において有意に高い値(p<0.05)となった。筋酸素動態では、Deoxy-Hbがenduranceテストにおいて有意に高い値(p<0.05)となった。自覚症状では息切れ感、下肢疲労感いずれも有意差はみられなかった。【考察】 換気指標においてVO2、VEにおいて有意差はなく、ramp負荷試験では、VCO2が高い値となった。これは乳酸の産生が原因と考える。運動強度の増加に伴い、無酸素運動の割合が増してくる。無酸素運動では乳酸が産生され、筋内では乳酸性アシドーシスを防ぐためにHCO3 の緩衝系作用が働き、その際二酸化炭素が排出される。実際ramp負荷の方が、最大仕事率が高いことから乳酸産生が高かったものと考えられた。循環指標では、SVやTPRに有意な差はなく、HR、SBPがramp負荷試験において有意に高い値となった。これらのことから、ramp負荷試験の方がより心負担が大きい運動であり、換気指標の結果を踏まえると、ramp負荷試験では呼吸・循環などの酸素供給系の要素が強い負荷試験と考えられる。筋酸素動態では、enduranceテストにおいてDeoxy-Hbが有意に高い結果となった。Deoxy-Hbは筋の酸素抽出能を反映するため、enduranceテストの方が筋の酸素抽出が行われていると考えられる。一方ramp負荷試験では、循環器での結果も考慮し、血液供給は十分であるが、筋の酸素抽出が十分に行われていないと考えられる。これらから、enduranceテストでは酸素利用系の要素が強いと考えられた。自覚症状では、息切れ感・下肢疲労感共に有意差はなく、自覚的運動強度に差はないと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 Enduranceテストでのトレーニング効果の反応性の良さは筋有酸素能の改善を反映していると推測された。そのため運動持続時間を延長する場合には、筋有酸素能の改善を行うことが望ましいと考えられる。また運動耐容能の評価としてさまざまな負荷試験があるが、それぞれの特徴に留意して適切に実施することや、結果を解釈することが望ましいと考えられた。

著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top