抄録
【はじめに、目的】 近年,Pederson BKらはinterleukin-6(以下IL-6)を,糖代謝,脂肪代謝の活性化,造血幹細胞の活性化,神経修復の活性化等を有する多機能サイトカインであるとし,これらの作用を通じて,運動負荷が免疫系・代謝系へと作用すると報告している.これまでの知見では,血清IL-6の産生には運動強度と運動時間が影響する.また, Jones DAらは暑熱環境下での運動が血清IL-6を上昇させると報告し,筋収縮が血清IL-6を上昇させる理論に加えて温熱ストレスが血清IL-6上昇に関与することを示唆させる.しかし糖尿病や動脈硬化を抱える中高年者や障害者とって,長時間や高負荷の運動,高温環境下での運動は困難である.そこで今回,筋収縮する骨格筋部位そのものを加温することで,身体的負担を軽減し, 運動で誘発される血清IL-6の産生が増大するという仮説を立て検証する. 【方法】 測定参加者は,20~35歳の健常な男性7名(年齢26.7±0.63歳,身長170±0.71cm,体重64.2±0.77kg)である.場所は温度25°相対湿度60%の人工気候室で行い, 温熱方法は,電気式ホットパック(カナホット.株式会社カナケン)を大腿部に巻いて弾性包帯にて固定した.運動方法は,自転車エルゴメータ運動を最大酸素摂取量(以下VO2max)60%の運動負荷で実施した.参加者にホットパックを大腿部に施行し,30分間加温する条件(以下H条件),ホットパックを大腿部に巻いて加温しないで30分間の運動をする条件(以下E条件),ホットパックを大腿部に施行し30分間加温中に運動を実施する条件(以下EH条件)の各条件を一週間以上空けて測定した.分析項目はIL-6, アドレナリン, ノルアドレナリンとし, 採血時期はEx前・後,Ex後2時間に行なった.なお統計学的検討には3条件から得られたEx前・後,Ex後2時間の各測定値と各条件間を比較し, 一元配置分散分析を用い,post hocテストで多重比較法Tukey-Kramerの方法を用いて実施した.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の内容はヘルシンキ宣言のもとに実施し,和歌山県立医科大学倫理員会で承認され,測定に先立って測定参加者には研究の主旨と方法を十分説明し, 同意を得てから実施した.【結果】 血清IL-6は, E条件では運動前・後, Ex後2時間で変化はなかったが, H条件, EH条件は, Ex前・後と比較してEx後2時間に有意な上昇が認めた.またEx後2時間ではH条件に比較してE条件は変化がなかったが, Ex条件は有意な上昇を認めた. アドレナリンは, H条件では運動前・後, Ex後2時間で変化はなかったが, E条件, EH条件は、Ex前, Ex後2時間に比較してEx後に有意な上昇が認めた. またEx後ではH条件と比較してE条件, EH条件に有意な上昇を認めた. ノルアドレナリンは,H条件, E条件では運動前・後, Ex後2時間で変化はなかったが, EH条件では、Ex前, Ex後2時間に比較してEx後に有意な上昇が認めた.またEx後ではH条件,E条件に比較してEH条件に有意な上昇を認めた. 【考察】 3条件プロトコールの結果, E条件の血清IL-6は変化がなかった. 過去の報告ではBruunsgaar Hらは, 自転車エルゴメータ運動をVO2max80%の負荷で30分間実施することで血清IL-6が2倍に上昇した.Timmons BWらは, 自転車エルゴメータ運動をVO2max65%の負荷で90分間実施することで血清IL-6が3倍に上昇したと報告した.E条件の測定結果は,過去の報告を考慮すると運動強度が低いことや運動時間が短いことが, 血清IL-6の上昇に至らなかった原因であると推察する. H条件はEx前・後から比較してEx後2時間で血清IL-6が有意に上昇した.これは運動誘発性の血清IL-6以外に局所温熱刺激のみにも血清IL-6が反応する可能性を示唆した.しかしながらEx後2時間にH条件に比較しEx条件は有意な上昇を認めた.これはH条件への温熱ストレス量が少なかったという原因のためと考える. そしてEH条件は,Ex前・後から比較してEx後2時間に血清IL-6が有意に上昇し,VO2max60%,30分間の運動で血清IL-6の誘発を確認した.その理由は大腿部に温熱刺激を加えて運動したことによって,アドレナリン及びノルアドレナリンの双方がEx前と比較してEx後に有意な上昇を認め, この濃度の上昇が骨格筋のアドレナリン・ノルアドレナリン作動性に働き,筋収縮から誘発される血清IL-6産生を増大させたと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究は, 運動中の骨格筋に局所温熱刺激を加えることで, 運動時に誘発される血清IL-6の産生を増強することを明らかにした.これは長時間や高負荷の運動が困難な高齢者や障害者の身体的負担を軽減し, 免疫・代謝機能の改善に役立つと考える.