理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
若年者と中年者における椅子立ち上がりパワー指標と等速性膝伸展力
高畑 哲郎髙橋 精一郎中原 雅美岡 真一郎矢倉 千昭
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p. Aa0141

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抄録

【はじめに、目的】 下肢筋の簡易的な筋機能評価として,時間や回数を指標とする椅子立ち上がり動作を用いたパフォーマンステストがある.しかし,立ち上がり動作は対象者の体格の違いにより力学的な仕事量にも差が生じるため,立ち上がりの時間や回数よりも,体格を考慮し力学的な筋パワーを意識した指標の方が下肢筋の筋機能を反映する可能性がある.Takaiらは,中高年者を対象に,10回椅子立ち上がりテスト(Sit-to-Stand test:以下,STS)を実施し,時間や体格などから立ち上がり1回当たりの仕事率を算出したパワー指標は,時間を指標とした従来の方法よりも膝伸展筋の横断面積,等尺性運動での膝伸展トルクと有意な相関があったと報告している.しかし,椅子立ち上がりテストにおけるパワー指標の報告は少なく,パワー指標の加齢による変化を調査した報告はない.そこで,本研究は,若年者と中年者を対象に,年代別によるSTSの所要時間(以下,STS-T)およびパワー指標(以下,STS-P)と等速性膝伸展運動における最大トルク,平均パワーとの関係を検証することを目的とした.【方法】 対象者は健常成人82名(男性41名,女性41名)であった.対象者の基本特性は年齢43.7±17.0歳,身長1.63±0.09m,体重59.0±10.7kg,下肢長0.78±0.05mであった.STSはCsukaらが報告した方法に準じて実施し,STS-Tを測定した.STS-PはTakaiらが報告した次式で求めた.STS-P(W)= [下肢長(m)-椅子の高さ(m)]×体重(kg)×重力加速度(m/s2)×立ち上がり回数(回)/立ち上がり時間(s).筋機能測定はBiodex(Biodex社)を用いて,利き足の等速性膝伸展力を測定した.角速度は60deg/sec,180deg/secに設定し,各々5回,10回の膝関節伸展運動を最大努力で行わせ,最大トルク,平均パワーを測定した.統計解析は,対象を若年者群(20~30代),中年者群(50~60代)に分類し,群間における基本特性,STS-T,STS-Pおよび等速性膝伸展力測定の結果の比較にはMann-Whitney U検定を用い,STS-T,STS-Pと等速性膝伸展力との関係についてはSpearmanの順位相関係数を用い,危険率5%未満をもって有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は国際医療福祉大学倫理審査委員会の承認を得ており,全ての対象者に書面にて研究の目的,内容を説明し,同意を得たうえで測定を実施した.【結果】 基本特性,測定結果の年代による比較では,身長,体重,下肢長および STS-Pに有意差がなかった.STS-T,STS-Pと膝伸展筋力との関係において,STS-Tは若年者,中年者ともに膝伸展筋力と有意な相関がなかった.STS-Pは,若年者では60 deg/secの最大トルク(r=0.85,p<0.01)および平均パワー(r=0.87,p<0.01),180 deg/secの最大トルク(r=0.84,p<0.01)および平均パワー(r=0.84,p<0.01)と高い正の相関があった.中年者では60 deg/secの最大トルク(r=0.72,p<0.01)および平均パワー(r=0.71,p<0.01),180 deg/secの最大トルク(r=0.76,p<0.01)および平均パワー(r=0.74,p<0.01)と高い正の相関があった. 【考察】 STS-P(動作能力による指標)は下肢筋の筋機能を反映するものの,年代による差がみられなかったことにより,中年までは加齢による変化が小さいことが示された.これは,一般に加齢による筋機能低下は中年以降にその低下率が大きくなること,また椅子立ち上がり動作のようなパフォーマンスはバランス能力なども含む複合的な動作であるため,加齢による下肢筋の筋機能低下の程度と必ずしも一致しないことが理由として考えられる.STS-Pに等速性膝伸展力との高い正の相関がみられたことにより,下肢筋機能を評価する際には筋パワーを意識した力学的な指標を用いることが有用であると考えられるが,今後70~80代の高齢者も含め,さらに対象数を増やし,加齢による筋機能とSTS-Pとの関係の変化を明らかにする必要があると考える. 【理学療法学研究としての意義】 力学的な指標としてのSTS-Pと下肢筋の筋機能との関係,また加齢による変化を明らかにすることは,リハビリテーション対象者への下肢筋機能評価における一助になると考える.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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