理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
足関節背屈制限が立ち上がり動作に及ぼす影響と動作遂行に必要な背屈可動域の検討
─床反力、股関節屈曲角度に着目して─
森田 智美宮崎 純弥
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p. Aa0140

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抄録
【はじめに、目的】 足関節背屈制限を有する場合、一般的な立ち上がり動作と比較して床反力の前方分力・垂直分力が増大すると報告されている。これらは、動作遂行の困難さを示す指標になり得るとも報告されている。しかし、足関節背屈制限は立ち上がり動作を困難にすると考えられるが、具体的にどの程度の制限が動作遂行を妨げるのかは明らかでない。本研究の目的は、短下肢装具を用い4種類の足関節背屈制限を設け、背屈可動域と床反力前方分力・垂直分力のピーク値および離殿時の股関節屈曲角度との関係を明らかにすることで立ち上がり動作に必要な背屈可動域を検討することとした。【方法】 健常な男性30名(年齢:21.3±0.9歳、身長:172.8±5.3cm、体重:63.6±8.8kg)を対象とした。金属支柱付き短下肢装具(ダブルクレンザック)を用いて4種類の可動域(背屈可動域15°,10°,5°,0°)を設定し、各々の装具を左下肢に装着した状態と、制限を設けない状態(一般的な立ち上がり動作)での合計5条件でランダムに椅子からの立ち上がり動作を行った。床反力計とビデオカメラを用いて、各々の条件での前方分力・垂直分力のピーク値および離殿時の股関節屈曲角度を求め、一般的な立ち上がり動作と比較した。統計処理はSSSP Statistics 17.0を用いて一元配置分散分析を行い、有意差が認められた場合にはBonferroniの方法に従い多重比較検定を行った。なお、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は目白大学倫理員会の承認を得た。また、対象者には本研究の趣旨を説明し、書面にて実験への同意を得た。【結果】 一般的な立ち上がり動作では、前方分力・垂直分力の値は離殿時にピークとなり、前方分力は平均68.5±22.7(N)、垂直分力は平均1298.6±64.9(N)、股関節屈曲角度(体幹―大腿のなす角)は離殿時に最小となり、平均55.7±7.2(°)であった。足関節背屈制限を設けた場合、一般的な立ち上がり動作と比較して、前方分力・垂直分力のピーク値の増大および離殿時の股関節屈曲角度の減少がみられた。前方分力のピーク値は背屈可動域5°、0°の条件で、垂直分力のピーク値は背屈可動域0°の条件で有意に増大した。離殿時の股関節屈曲角度は背屈可動域5°、0°の条件で有意に減少した。【考察】 床反力前方分力は床を後方へ蹴る力を表し、垂直分力は床を真下へ踏み込んで重心を上方へ移動させる力を表している。足関節背屈制限を設けた場合、下腿に対して足部が相対的に後方に位置することができない。足部が下腿に対して後方に位置できない状態で立ち上がり動作を行うためには、股関節を過度に屈曲させ重心を前方に移動させる必要がある。また、股関節を過度に屈曲させた状態から重心を上方へ移動させる場合、股関節伸筋群の活動が増加し、床を踏み込む力が増大する。そのため、背屈制限を設けることで前方分力・垂直分力のピーク値の増大および股関節屈曲角度(体幹-大腿のなす角)の減少がみられたと考えられるが、背屈可動域15°、10°の条件では一般的な立ち上がり動作との有意差は認められなかった。以上の事から、立ち上がり動作を容易に行うために必要な背屈可動域は10°以上である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究は、日常生活において最も重要な動作の一つである立ち上がり動作について足関節背屈制限が動作に影響を及ぼすについて検討した。その結果、床反力と股関節屈曲角度に及ぼす影響が明らかになり、立ち上がり動作と足関節背屈制限の関係について明らかにした点が理学療法学的意義において価値が高いと考えられる。また、立ち上がり動作分析の基礎的知識と動作能力向上を目指す際の治療的目標になり得ることからも価値のある研究と言える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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