理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
足関節肢位の違いによる片脚立位時の下肢・骨盤・胸郭の運動学的パラメータの比較
斉藤 嵩勝平 純司丸山 仁司
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p. Aa0148

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抄録
【はじめに、目的】 運動連鎖は関節運動が隣接する関節に運動を波及することを指し,理学療法の評価,治療の際にもよく用いられる.入谷らは足関節回内が下腿内旋,大腿内旋を起こすと述べている.また,最近の三次元動作解析装置を用いた研究により両脚立位,片脚立位時の足関節肢位の影響が体幹部の運動に連鎖すると報告されている.しかし,これらの研究は足関節肢位の設定を回内位のみで行っている.そのため,両脚立位では運動の自由度に欠けること,また,片脚立位では狭い支持基底面内でバランスを保持するために体幹部に姿勢変化が起きたのか,足関節肢位の違いが姿勢変化を起こしたのかはわからない.よって,今回は,足関節肢位を前後,左右軸周りの全極性の角度を用いて設定し,片脚立位を計測することで,足関節肢位の変化が下肢関節,骨盤,胸郭に運動学的にどのような変化を与えるかを明らかにし,足関節が起こす運動連鎖を理学療法の評価に役立てることを目的とする.【方法】 対象は整形外科疾患および神経疾患などの既往のない健常若年成人男性36名(年齢22.5±2.8歳,身長170.8±5.3cm,体重62.9±8.2kg)とした.計測動作は10秒間の片脚立位とした.計測条件は通常の片脚立位(以下Normal)に10°の斜面台を利用して足関節を回内位,回外位,底屈位,背屈位に変化させた片脚立位4条件を加えた計5条件とした.片脚立位は右足を立脚側とし,左足を股関節,膝関節90°とし,遊脚側とした.計測機器には三次元動作解析装置(VIOCON社製)を用いた.計測パラメータは関節角度(足関節角度,膝関節,股関節,骨盤角度,胸郭角度,骨盤に対する胸郭角度)とした.解析には安定した3秒間のデータの平均値を用いた.統計学的処理はPASW18.0 を用い,多重比較検定Bonferroni法を使用し,各条件間で比較した.有意性の判定は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は国際医療福祉大学院の倫理委員会の承認を得た後,被験者には十分説明をし,文書による同意を得てから行った.【結果】 足関節肢位は斜面台により変化させることができた.矢状面上では回内位,回外位,底屈位で膝関節屈曲角度のみに変化がみとめられ,有意に増大した.前額面上では,回内位にて骨盤右傾斜角度,胸郭左傾斜角度が他の条件に比べて有意に増大した.回外位では他の条件に比べ,有意に膝関節外反角度が減少し,股関節外転角度が増大した.水平面上では,胸郭角度には条件間で有意差がみられなかった.一方,骨盤,股関節は回内位,背屈位とNormal,回外位,底屈位との間で有意差がみられ,回外位,底屈位ではNormal,回内位,背屈位との間でも有意差がみられた.【考察】 矢状面上では,Normalと比べ他の条件間で有意差がみられたのは,回内位,回外位,底屈位での膝屈曲角度の増大のみであった.これは矢状面上で起こる足関節肢位の変化は,膝関節のみで対応できたことを示している. 水平面上では骨盤と股関節に有意差がみられた.外返し動作には回内と背屈が含まれ,内返し動作には回外と底屈が含まれる.骨盤と股関節には外返しを含む肢位と内返しを含む肢位の間で有意差がみられたが,胸郭回旋角度には有意差がみられなかった.このことは,水平面上では,足関節肢位による影響を打ち消すように股関節と骨盤の角度変化が生じて,胸郭まではその影響が至らないような運動連鎖を用いているためと考えられる.しかし,前額面上ではNormalに対し,回内位では骨盤と胸郭の側屈角度に有意差がみられた.回外位ではNormalに対し,膝関節,股関節に有意差がみられた.回内位では,斜面台10°の設定では関節可動域による調整域が狭く,下腿部を大きく外側に傾斜することができないため,体幹部にてコントロールした.それに対し,回外位では可動域は20°であるため調整域が回内位に比べて広いため,下肢でのみ対応できたと考える.【理学療法学研究としての意義】 片脚立位は支持基底面内の床反力作用点を全身によりコントロールする動作である.先行研究では,足関節回内位が両脚立位,片脚立位時に下肢,骨盤に影響を与えることがわかっていた.今回の研究により新しく,足関節の状態に関わらず,主に骨盤以下の関節による運動連鎖を用いて姿勢を安定させることがわかった.これらの結果は,健常若年成人から得られたものであるが,疾患者を対象とした理学療法における評価,治療の際の一指標として役立てることができると考える.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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