理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
立位姿勢での重心移動域および姿勢安定度評価指標の加齢変化について
田中 勇治望月 久
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p. Aa0149

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抄録

【はじめに、目的】 高齢者の転倒率は,一般成人より高いことが知られている.高齢者の転倒は種々の要因により説明されているが,その中で立位姿勢のバランスが重要であることが報告されている.実際の転倒状況において支持基底面が固定された立位での動作中や立ち上がり座り動作時などでの転倒報告があり,立位姿勢が不安定であることが推測される.一方,いわゆる重心動揺のような静的バランスとは関係しないとの報告が散見される.このような動作時には支持基底面を固定した状態で随意的に重心を移動する範囲(重心移動域)が狭くなっていると考えられる.広い重心移動域を有していれば,立位でのリーチ動作,振り向き動作また歩行開始時に安定した状態から動き出すことが可能であると考えられる.したがって重心移動域を測定すれば立位姿勢の安定性を評価することが可能である.そこで本研究では,立位姿勢の安定性と関係が深いと考えられる重心移動能力の加齢による変化を明らかにするため,立位姿勢で前後および左右への重心移動域,重心動揺面積を測定し,さらにこれらの結果から得られる安定域面積および姿勢安定度評価指標(以下,IPS)について加齢との関係を検討した.【方法】 被験者は事前に測定に関する十分な説明を行い同意を得た104名(女57名,男47名,年齢18-96歳)であった.18~80歳の学生と大学職員および60歳以上の養護老人ホーム居住者のうち明白な中枢神経疾患のない者で,このうち60歳以上の者については過去1年間の転倒経験回数を聞き取り調査した.測定には重心動揺計を使用した.測定位は,足底内側を10cm離した開脚立位とし,支持基底面の中央付近で最も安定した位置,および随意的に重心を前方,後方,右方,左方に移動した位置でそれぞれ10秒間足圧中心を測定した.前後移動域は前方および後方の動揺中心間の距離,左右移動域は右方および左方の動揺中心間の距離とした.また,この2つの距離を乗じて安定域面積を求めた.重心動揺面積は5つの重心動揺面積の平均値とした.IPSは元法に従ってlog[(安定域面積+重心動揺面積)/重心動揺面積]で求めた.さらに立位姿勢の安定性を簡便に測定可能なfunctional reach test(以下FRT)も参考値として測定した.測定値および算出値を統計および散布図で分析した.年齢およびそれぞれの各算出値はPearson積率相関係数を用いて分析した.さらに年齢を独立変数としてIPSを従属変数とする2次回帰分析を施行した.また,過去1年間の転倒経験回数を0回,1回,2回以上に分類し,年齢と各算出値との散布図を作成した.【倫理的配慮、説明と同意】 参加者は,東京都内のK養護老人ホーム居住者,同施設職員,本大学学生および同職員で,事前に測定に関する説明を行い,参加意志決定後であっても辞退することが可能であることを伝えた上で参加の同意を得た.なお,本研究について植草学園大学研究倫理委員会に申請し承認を受けた.【結果】 年齢と前後移動域間(r=-0.73),年齢とIPS間(r=-0.76)および年齢とFRT間(r=-0.78)に危険率1%未満で強い負の相関が認められた.また,年齢と左右移動域間(r=-0.64),年齢と安定域面積間(r=-0.67)に危険率1%未満で負の相関を認めた.年齢と重心動揺面積の間には弱い相関(r=0.37)を認めた.年齢とIPSの散布図から,過去1年間の転倒回数0~1回経験者と2回以上の者との境界がIPSの値0.70付近にあり,また年齢が60歳を超えるとIPS値が急に低下すること,ばらつきが大きくなる傾向にあることが確認された.FRTにおいても同様の傾向が認められた.重心動揺については,加齢によって増加する傾向が確認できるがばらつきが非常に大きくなっていた.2次回帰分析によると年齢とIPSの重相関係数はR=0.82であり,線型回帰より当てはまり具合が良好であった.【考察】 立位姿勢で重心を移動可能な範囲は,前後方向,左右方向ともに加齢によって減少することが示された.また,IPSやFRTにおいても同様の結果が認められており,高齢になると立位での動作が不安定になりやすいことが窺える.高齢者は立位姿勢での安定性が低下する傾向にあり,年齢とIPSおよびFRTの散布図および2次回帰分析の結果によれば60歳代から急に低下することが示され,この年代からの立位姿勢の安定性低下の予防が転倒の防止に重要であることが示唆されている.【理学療法学研究としての意義】 立位姿勢の安定性が加齢により低下し,特定の年代からは急激に低下することを示す本研究は介護予防において有用であると考える.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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