理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
着座動作における着殿直前時の仙骨可動性
─加速度計による立位から着座動作時の仙骨可動域の特徴─
岡田 覚米山 裕子
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p. Aa0151

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抄録

【はじめに】 立位からの腰掛動作(以下,着座動作)は,腰部疾患を有する者にとって,立ち上がり動作と同様に苦慮することが多く,特に着殿直前での疼痛を訴えることが多い印象を受ける.しかし,着座動作における腰椎や骨盤帯に着目する研究は少なく,重心移動,足関節姿勢制御,体幹前傾角度,筋電図などの検討は行われているが,立ち上がり動作の逆動作として捉えられることが一般的である.Levineらは「骨盤前後傾は腰椎前彎,後彎と等しく動く」と報告しており,脊柱の土台として位置する仙骨可動域は寛骨と同様の動きとして扱われている.しかし,骨盤とは左右寛骨と仙骨とにより構成される総称であり,寛骨の動きを仙骨の動きとして捉えることに違和感がある.Brunner C,Smidt GLらは坐位での骨盤前後傾運動時の仙骨可動域について「回転で0.2~2°,並進で1~2mmの可動域がある」としている.この研究は座位における検討であり,着殿直前の可動域を反映しているとは言い難い.着座動作時に何かしらの動きを有する可能性がある仙骨可動性の研究,報告はなく,各研究の報告を統合,推論し,臨床場面で対応しているのが現状である. 本研究は立位から着座動作の着殿直前時の仙骨可動域の特徴を検討することである.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究に対してはヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を考慮し,被検者に対して書面,口頭にて研究趣旨を説明し,署名にて同意を得た.【対象と方法】 対象者は測定実施日の過去6か月間で整形外科,中枢神経的に問題がない20名(女性20名,年齢21.95±0.82歳)とした.測定動作は立位姿勢から座面に着座する動作とした.測定に際し,加速度計(MicroStone社製MVP-RF8)を2機用いた.基準となるセンサーは床面に設置し,もう一方を第2仙椎後面の体表へ両面テープにて貼付した.立位測定肢位の足部位置は肩幅とし,被検者と座面との距離は着座時に大腿中央部が座面先端に接する位置とした.また,座面高は下腿長に設定した.立位骨盤傾斜角度は加速度計の絶対角度を用いて算出し,絶対角度0°を基準とした前傾群(12名),後傾群(8名)の2群に分類した.着座動作は,上肢が座面,身体に触れる以外は制限を設けず,動作速度は任意とした.着殿直前時は,座面最前端に接地した圧センサー(徳永総器研究所製 ぶるっピー4i送信機)に右大腿部中央が接し,警告音が鳴った場面と定義した.なお,着殿直前時の仙骨可動域は,立位からの着座動作開始時に0基準として座面に接した際を可動域とした.床面を基準としたセンサーと仙骨部のセンサーとのX回転角との相対角度(MicroStone社製 動作角度計測ソフトMVP-DA2-S Rev1.2)を算出し,-方向を前傾,+方向を後傾と定義した.動作は3回実施し,平均値を指標とした.加速度計の精度を保つため動作実施毎にジャイロ校正を実施した.統計解析は,2標本のt検定を用いて各群の着殿直前時の仙骨可動域の差を求めた.この検定に際し,データが正規分布に従うかをShapiro-Wilk検定にて確認した.すべての検定における有意水準はp=0.05とした.今回の統計解析はSPSS Ver11J(SPSS JAPAN)を用いた.【結果】 前傾群の着殿直前の仙骨可動域は1.97±12.9°,後傾群は-4.71±5.5°であった.本研究における検者内信頼性(ICC1.1)は0.87であった.Shapiro-Wilk検定は,前傾群はp=0.802,後傾群はp=0.538であり,正規分布に従わないとはいえないことを確認し,2標本のt検定を適用した結果,p=0.186であり有意な差は認められなかった.前傾群,後傾群での平均差は6.68°であり,95%信頼区間では-3.53°~16.91°であった.【考察】 本研究においては有意な差は認められなかったが,立位から着殿直前時の角度変化では,前傾群は後傾方向へ1.97±12.9°の可動域を有し,後傾群は前傾方向へ4.71±5.5°の可動域を有する結果となった.今回は健常者での検討であるが,立位時に仙骨が前傾位にある場合は着殿直前時に後傾運動が起こり,仙骨が後傾位にある場合は前傾運動が起こりうることを示唆する結果となった.この結果はVleeming Aらの「前屈トルクが仙腸関節の安定化を促す」という報告に一致する.特に後傾群では仙骨前傾により,仙腸関節での安定性を動作中の関節運動でおこなう傾向があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 本研究において,立位姿勢での仙骨傾斜角度により着座動作における着殿直前時の仙骨可動域に特徴がある可能性が示唆された.このことから,腰部疾患者の着座動作における椎間板内圧の変化,仙腸関節,椎間関節への器械的ストレスを予測できる可能性があることは,今後の腰部疾患患者へのアプローチを広げる可能性があるという点で意義があると考える.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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