理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
高齢患者における非監視下連続歩行の可否判定に関する検討
堅田 紘頌森尾 裕志石山 大介小山 真吾井澤 和大渡辺 敏清水 弘之
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p. Aa0158

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抄録
【目的】 ADL能力には,運動制御機能,体幹・下肢の神経筋機能などの様々な因子が影響している.これらの各機能は,加齢に伴い器質・量的に低下し,ADL能力の低下や転倒の原因になりうる.さらに,入院高齢患者は,治療・安静による不活動が各機能・ADL能力の低下を加速させる可能性もある.このような患者に対して,理学療法士は,動作自立度の判定や能力改善のための介入が求められる.しかし,各機能は,互いに関連して動作を構成しているため,能力障害を起こしている要因を複数有している症例は,単一の機能指標のみでは,自立度の判定が困難となる.そのため,各機能指標を総合化した動作自立度の判定が必要である.ADLに影響を及ぼす歩行能力に関しては,下肢筋力やバランス能力など,各機能の基準値に関する報告が散見されるが,因子を総合化した上で,自立度を判定しているものは乏しい.本研究の目的は,高齢患者の歩行能力に影響を及ぼす因子を総合化し,その自立度を判定することを目的とした.【方法】 対象は,2004年4月から2011年3月の間に聖マリアンナ医科大学病院に入院し,リハビリテーション部に依頼のあった連続23499例中,後述する除外基準例を除いた65歳以上の高齢患者1075例(平均年齢75.7歳,男性68.2%)である.なお,全例が両脚での立位保持が可能な例とした.また,除外基準は,不良な心血管反応を示す例,片麻痺や運動器疾患,認知症を有する例とした.測定項目は,歩行自立度,下肢筋力,およびバランス能力指標である.歩行自立度は,歩行自立群(非監視下で50m以上連続歩行可能)と非自立群(監視もしくは介助を要する)の2群に選別された.下肢筋力の指標は,アニマ社製徒手筋力測定器を用い,検者は,座位にて下腿を下垂した肢位で等尺性膝伸展筋力を測定した.我々は,左右の平均値を体重で除した値を膝伸展筋力 [kgf/kg]とした.バランス能力の指標は,前方リーチ距離と片脚立位時間 (OLS)である.前方リーチ距離 [cm]として,我々は,指示棒を用いた前方リーチテストを採用した.OLS [秒]は開眼にて施行され,測定上限は60秒とした.なお,各測定に際して,我々は,十分な練習を被験者に施した後,2回実施し,その最高値を採用した.基礎疾患,年齢,身長,体重,およびBMIは診療記録より調査された.統計学的手法は,Mann-WhitneyのU検定,ロジスティック回帰分析,判別分析を用いた.まず,歩行自立群と非自立群間の各指標を比較した後,歩行自立度に及ぼす因子を抽出した.次にグループ化変数に歩行自立の可否,独立変数に抽出された因子を投入し,歩行自立度判定のための判別式を求めた.なお,統計学的判定基準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会の承認を得て実施した (承認番号 :第1967号).本研究に際し,事前に患者に研究の趣旨,内容および調査結果の取り扱い等に関して説明し,同意を得た.【結果】 全1075例中,歩行自立群は854例,非自立群は221例であった.歩行自立群は非自立群に比し,膝伸展筋力(0.48vs0.27kgf/kg),前方リーチ距離(34.4vs24.8cm),そして,OLS(20.9vs2.30秒)全てにおいて高値を示した(p<0.001).ロジスティック回帰分析の結果,歩行自立度に影響を及ぼす因子としては,膝伸展筋力,前方リーチ距離,およびOLSが抽出された(p<0.001).各因子を投入した判別分析の結果,歩行自立度の判定の判別式は,z【+;歩行自立 -;非自立】=(前方リーチ距離×0.125)+(OLS×0.001)+(膝伸展筋力×3.390)-5.563【正答率; 82.4% 誤判別率; 17.6%】で示された.【考察】 高齢患者の歩行自立度に影響を及ぼす因子は,膝伸展筋力,前方リーチ距離およびOLSであった.これらの因子を使用した判別式により,正答率82.4%の確率で歩行自立度の判定が可能であった.臨床場面において,ある因子は,基準値を満たしているが,他の因子が基準値を満たしていない症例が存在し,動作自立度の判定に困惑する場合がある.このような症例に対して,今回の検討で得られた判別式を使用することで,3つの因子の合力としての歩行自立度の判定が可能となる.しかし,判別式により,明らかになるのは,動作自立度のみである.そのため,治療プログラムの立案,効果判定をするためには,対象者の各機能の把握・ADL能力との関連を考察し,先行研究により報告されている各基準値との比較・検討が必要と考えられた.【理学療法学研究としての意義】 本研究結果は,高齢患者の歩行自立度を判定する判別式を表した.この判別式は,82.4%の確率で動作自立度の判定が可能であった.これらの結果は,高齢患者への理学療法実施に関する歩行動作の自立度の判定,治療プラグラムの立案,効果判定および目標設定の一助になるものと考えられた.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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