理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
教示法の違いによる模倣動作の正確性と反応時間
西澤 公美木村 貞治
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キーワード: 模倣, 教示法, 観察
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p. Aa0169

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抄録
【はじめに、目的】 小児の理学療法の臨床場面では,セラピストがデモンストレーションを用いて課題運動を教示することが多いが,こどもと対面して運動を伝える場合には,こどもがその運動を自己のイメージの中で心的に回転させる作業が必要になる.その際,対面観察ではなく背面観察を行い,さらに心的回転がないような模倣方法が最も簡単であると思われるが,対面しての教示と背面からの教示の違いによる模倣効率の差異を定量的に検証した研究はきわめて少ないのが現状である.そこで本研究では,対面教示と背面教示の模倣効率の差異を,動作の正確性と反応時間,そして近赤外線分光装置(以下,fNIRS)を用いた脳の賦活状況を指標として定量的に解析することで,観察者が,速くかつ正確に模倣しやすい教示法について検証することを目的とした. 【方法】 模倣課題は,非対称的な上下肢の動きを組み合わせた姿勢とし,1.教示者と対面した位置(三人称的)で,鏡に映っているかのように模倣する三人称的鏡像模倣,2.教示者と対面した位置で教示者の動きを左右反転させて模倣する三人称的解剖模倣,3.教示者が模倣者の前に後ろ向きに立ち(一人称的),教示者と同側で模倣する一人称的同側模倣,4.教示者が模倣者の前に後ろ向きに立ち,教示者の動きを左右反転させて模倣する一人称的対側模倣,の4種類とし,ランダムに配列した.測定は,安静画面を5秒間見せ,次に模倣の種類(1~4)の指示画面を3秒間見せ,次に模倣課題が示されたフィギュア(POSER7)を6秒間前方のスクリーンに投影して,それと同時に被験者に模倣動作を開始させた. 4条件すべての模倣を1人につき1日1回,計16試行を連続で行なった.4条件の模倣運動のうちどの順で実施するかについてはラテン方格法に基づいて無作為に配列した.最後に模倣の難易度等に関するアンケート調査を行った.解析項目は,1.模倣の正確性,2.模倣の反応時間,3.模倣動作時の脳の賦活状態を示すfNIRSにおけるチャンネル(以下,ch)毎の酸素化ヘモグロビン変化量(以下,oxy-Hb変化量),4.主観的な模倣のしやすさ,の4項目とし,4条件間の比較をFriedman検定を用いて行い,有意差が認められた場合にはWilcoxonの符号付順位和検定を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 この研究への参加の任意性及び個人情報保護について,文書及び口頭で被験者に説明し,同意を得た.本研究は,当施設の医倫理委員会(承認番号:1573)の承認を得て実施した.【結果】 模倣動作の正確性は4条件間で有意差が認められ,三人称的鏡像模倣が最も正確性が高く,三人称的解剖模倣との間に有意差が認められた.模倣反応時間は4条件間で有意差が認められ,一人称的同側模倣が最も速く,一人称的対側模倣及び三人称的鏡像模倣との間に有意差が認められた.oxy-Hb変化量が4条件間で有意差が認められた脳の領域は前頭前野,Broca野で,これらの領域におけるoxy-Hb変化量は,三人称的鏡像模倣は一人称的対側模倣よりも有意に少なく,また,三人称的解剖模倣は一人称的対側模倣よりも有意に少なかった.主観的評価は4条件間で有意差が認められ,一人称的同側模倣が最も模倣しやすいとされ,三人称的鏡像模倣及び一人称的対側模倣との間に,また三人称的鏡像模倣は一人称的対側模倣との間に有意差が認められた.【考察】 本研究の結果,模倣の反応時間,主観的な模倣の容易さという点からは一人称的同側模倣が,模倣の正確性という観点からは三人称的鏡像模倣が他条件に比べて模倣効率がよい教示法であることが示された.また,oxy-Hb変化量は三人称的鏡像模倣が一人称的対側模倣よりも有意に少なかったことから,模倣を正しく行いやすい場合には複雑な脳の神経活動が少なくなるということが考えられた.このことから,三人称的鏡像模倣や一人称的同側模倣など心的回転がない教示法が,運動の学習者にとって模倣しやすい教示法である可能性が示唆された.しかし先行研究では,一人称的模倣が三人称的模倣より能動的な運動方略の形成効率が良いとされていることから,心的回転のない教示法の中でも一人称的同側模倣の方が三人称的鏡像模倣よりもより効果的な教示法であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 以上より,運動の学習者である患者にとって模倣しやすい教示法として,心的回転がなく一人称的な運動方略を形成しやすい一人称的同側模倣によるデモンストレーションを用いた教示法を実践することが有用であると考えられた.今後は実際の症例を対象として,教示法の違いによる運動学習効果の相違などを検証していくことが課題であると考える.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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