理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
姿勢恐怖が体幹屈筋皮質脊髄下行路興奮性に与える影響
田中 貴広鎌田 理之松木 明好平岡 浩一
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p. Aa0891

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抄録
【目的】 姿勢恐怖は静止立位中の足圧中心動揺の減少や屈筋の活動増加、伸筋の活動低下を誘発することから、運動制御に影響を与えることが明らかになっている(Carpenter et al. 2001)。映像により恐怖を誘発した場合も皮質脊髄下行路の興奮性が関与していることが証明されている(Coombes et al. 2009)。転倒恐怖を伴うであろう転倒イメージは屈筋の皮質脊髄下行路を促通し、伸筋を抑制する(Hiraoka 2002)。また不安などの情緒は近位筋の活動を高めることが明らかになっている(Bloemsaat et al. 2005)。これらより、姿勢恐怖は屈筋の皮質脊髄下行路を促通し、とりわけ近位筋である体幹屈筋に与える影響が最も大きいと予想できる。本研究は姿勢恐怖が皮質脊髄下行路興奮性に与える影響を検証した。【方法】 若年健常者9名、年齢28.4±5.4歳を対象とした。横45cm、縦90cm、高さ60cmの台上での静止立位保持(LS条件)と、横23cm、縦27cm、高さ60cmの台上での静止立位保持(SS条件)を実験条件とし、静止立位は閉眼、閉脚、両上肢は体幹側面から離れないよう指示した。また実験者や実験機材は被検者から2m以上遠ざけた。実験条件の施行順序は無作為とした。 恐怖の程度はvisual analogue scale(VAS)と心電図のR-R間隔にて評価した。VASは左端を全く恐く感じない、右端を想像する最大の恐怖と規定し、各条件中における主観的な恐怖の程度を計測した。身体動揺を観察するため、圧センサーを右母趾球、右踵部足底面に貼付した。皮質脊髄下行路の興奮性の評価はダブルコーンコイルを接続したTMSと筋電計を用いた。筋電計電極をTMS負荷側と対側の右内腹斜筋と同側の左内腹斜筋に貼付した。右内腹斜筋のホットスポットおよび運動閾値を決定し、コイル中心をホットスポットに合わせた。実験者によるコイル固定は姿勢恐怖や身体動揺に影響を与えるため、弾性包帯と吊り下げ装置にてコイルを固定した。刺激強度は運動閾値の1.2倍とし、10秒間の間隔を保ち各条件とも連続20回TMSを負荷した。 1)主観的な姿勢恐怖、2)心拍数、心拍変動、3)前足部、後足部荷重量、荷重比率(前/後荷重量)、4)背景筋放電量(BEMG)、5)MEP onset、offset、6)MEP面積値を算出した。なお5)、6)は条件間でBEMGが近似しない施行を除外し算出した。統計解析にはWilcoxonの符号順位検定を用いた。有意水準は5%とした。【説明と同意】 実験は大阪府立大学研究倫理委員会の承認を得て実施した。被験者には実験の目的、方法、及び予想される不利益を説明し同意を得た。【結果】 VASスコアはSS条件で有意に増加したが、心拍数、心拍変動は有意差を認めなかった。後足部荷重量はSS条件で有意に減少した。前足部荷重量は増加傾向にあったが、有意差は認められなかった。荷重比率は有意に増加した。BEMGはSS条件で両側ともにやや増加する傾向にあったが、有意差は認められなかった。MEP onsetは両側ともに条件間の変化は認められなかった。MEPoffsetは同側でSS条件で有意に延長した。対側MEPもSS条件で延長する傾向を認めたが、有意差は認められなかった。MEP面積値は両側ともにSS条件で有意に増加した。MEP面積値の変化はBEMGが近似しない施行を除外した後も有意な変化を認めた。【考察】 SS条件はVASスコアを増加させたことから姿勢恐怖を誘発したと考える。姿勢恐怖はBEMG有意な増加を示さず、荷重を前方へ移動させたことから、姿勢恐怖は姿勢制御戦略を変化させたが、体幹屈筋はこれに関与していないと考えられた。SS条件ではBEMGを調整後もMEP面積値を増加させたことから姿勢恐怖は皮質脊髄下行路興奮性を促通していることを示唆した。随意収縮によるMEP増加はfirst motor unitが動員されることにより、MEP onsetの短縮を伴う。本研究で観察されたMEP面積値の増加はMEP onsetの変化を伴わず生じているので、姿勢恐怖は随意収縮とは異なるメカニズムが作用していると考えられる。MEP onsetの変化を伴わず、MEP面積値を増加させる皮質脊髄下行路の促通形態は姿勢調節に伴う促通形態と類似しており、姿勢恐怖による皮質脊髄下行路の興奮性促通は姿勢調節と同様のメカニズムが作用していた可能性も考えられる。【理学療法学研究としての意義】 高所などによって誘発された姿勢恐怖に関する研究は近年、問題視されている転倒恐怖症のメカニズム解明に繋がると考えられており、本研究の成果は転倒恐怖症の神経生理学的メカニズム解明の一助になる可能性がある。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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