抄録
【はじめに、目的】 足部アーチは地面の凹凸や傾斜に足部を適合させ姿勢を保持する役割を担う。また、荷重に伴う衝撃を吸収し、身体の移動に際し推進力を提供する。そのため、臨床場面では足部アーチの可動性を評価する必要性を感じる場合がある。しかし、その評価は3次元動作解析装置など高価な機器や理学療法士の動作観察能力に頼らざるを得ない現状がある。そこで、比較的観察が容易である静的な足部肢位からそのアーチ可動性が予測可能かを検討したいと考えた。静的立位時の足部肢位に関する評価は種々紹介されてきた。Foot Posture Index(以下、FPI)は特別な器具を必要とせず、視診と触診で安静立位時の足部の回内外位を評価できる指標である。その方法は、以下6項目を評価する。距骨頭の触診、外果上下のカーブの観察、踵骨内外反位の観察、距舟関節部の膨隆の観察、内側縦アーチの観察、後足部に対する前足部内外転位の観察。各項目は5段階(-2,-1,0,+1,+2)で採点する。最低点-12は足部過回外を、最高点+12は足部過回内を示す。FPIはmoderateからgoodと高い検者内・検者間信頼性と妥当性を示している。一方、アーチ形態を評価する定量的な方法として中足部足背高、中足部足幅、前足部足幅の計測がある。これらの計測を荷重及び非荷重時に行い、その差を算出し、アーチ可動性を評価している研究もある。静的足部肢位の評価とアーチ可動性の関連性を示した研究は少数で、静的足部肢位からアーチ可動性を予測することができると結論付けることは難しい。本研究の目的は、静的な評価であるFPIとアーチ可動性の評価である荷重位(立位)及び非荷重位(端座位)での中足部の高さと幅、前足部の幅の関連性を明らかにすることである。【方法】 対象は健常成人46名(男性25名、女性21名、平均年齢24.3±5.5歳)の右足とした。FPIを実施し、本研究ではFPIの点数を間隔データとして使用するため各項目点を1~5点、合計点を6~30点に変更した。中足部足背高、中足部足幅、及び前足部足幅は、安静立位と端座位にて電子ノギスを使用し0.1mm単位で計測した。中足部足背高と中足部足幅は、足長の50%の位置で床から足背の高さと足幅を計測した。前足部足幅は第1中足骨頭から第5中足骨頭までの距離を計測した。足長はメジャーを用い踵の後端から足趾先端の距離を計測した。立位の中足部足背高から端座位のそれを除し、内側縦アーチ可動率とした。立位の中足部足幅から端座位のそれを除し、中足部横アーチ可動率とした。立位の前足部足幅から端座位のそれを除し、前足部横アーチ可動率とした。FPIの点数と内側縦アーチ可動率、中足部横アーチ可動率、及び前足部横アーチ可動率とのピアソンの相関係数を求めた。統計解析にはPASW ver. 18.0を用い、検定の有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は「川崎医科大学・同附属病院倫理委員会」で審査・承認され、被験者には本研究の趣旨を紙面と口頭で説明し、書面にて同意を得た。【結果】 FPIの点数と前足部横アーチ可動率に有意な負の相関を認めた(r = -0.441, p = 0.002)。FPIの点数と内側縦アーチ可動率、中足部横アーチ可動率に有意な相関は認めなかった(r = 0.224, p = 0.102、r = -0.225, p = 0.132)。【考察】 扁平といわれる回内足(FPI高値)ではその柔軟性からアーチ可動性は高く、甲高といわれる回外足(FPI低値)ではその剛性からアーチ可動性が低くなると予想していた。しかし、FPIの点数とアーチ可動率に相関がない、もしくはあっても弱い相関という結果から、静的立位の足部肢位からアーチ可動性の予測は難しいと考える。先行研究では、FPIと内側縦アーチ可動性、中足部横アーチ可動性に相関を認めたという報告があるが、poorからmoderateの相関であり、FPIの結果のみでアーチ可動性を予測することは難しいと述べている。FPIは荷重により足部形態が変動した後の静的な状態を評価するものである。可動性を評価する場合、少なくとも異なる2つの状態(例えば荷重と非荷重など)から確認する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果から、20代の健常成人において、足部アーチの可動性を予測する評価としてFPIは有用でないことが示唆された。今後、足背高や足幅の計測やその他の足部評価の有用性を検討していく必要がある。