理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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ヒト肩鎖関節における関節半月の肉眼解剖学的、組織学的研究
江村 健児荒川 高光寺島 俊雄
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p. Ab0441

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抄録
【はじめに、目的】 肩鎖関節は、鎖骨の肩峰端と肩甲骨の肩峰によって構成される平面関節である。上肢を挙上する際に、胸鎖関節や肩甲上腕関節での運動とともに、肩鎖関節を軸とした肩甲骨の上方回旋が起こる(Inman, et al. 1996)など、肩鎖関節の運動は上肢の運動と深く関与すると考えられる。肩鎖関節の関節腔には関節円板が介在するとされるが、肩鎖関節の関節円板についての詳細な解剖学的記述は乏しく、その機能についても不明である(Johnson & Ellis 2005)。また、肩鎖関節の関節円板の組織構成については、線維軟骨から構成されるとする報告(Guido, et al. 2007)と、線維性結合組織から構成されるとする報告(Moore & Dalley 2006)があり、対立している。そこで今回、ヒト肩鎖関節の関節円板の形態を肉眼的に精査し、さらに組織学的検索を行った。それら形態学的情報からヒト肩鎖関節の機能について考察を試みた。【方法】 本学医学部の解剖学実習に提供された遺体25体(平均年齢87.4歳)34側(右16側、左18側)の肩鎖関節を使用した。肩鎖関節周囲の筋、結合組織を取り除いた後、肩鎖関節の関節腔を鎖骨の肩峰端に沿って慎重に切り開き、関節円板の有無、その形状、関節包との位置関係を肉眼的に観察し、スケッチとデジタル画像にて記録した。関節腔を完全または不完全に仕切る構造物、すなわち、関節円板様あるいは関節半月様の構造物が存在した場合には、鎖骨肩峰端または肩峰とともに摘出し、脱灰、脱水、透徹してパラフィン包埋した。ミクロトームを用いて、包埋したパラフィンブロックを冠状面で薄切して厚さ4μmの組織切片を作成し、Hematoxylin-Eosin染色、Safranin O染色を施して光学顕微鏡下にて観察した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究で使用した遺体は死体解剖保存法に基づき、生前に適切な説明をし、同意を得ている。解剖は全て、定められた解剖実習室内にて行った。【結果】 34側中6側(右2側、左4側)において関節包の一部を付着部として関節腔内に突出する関節半月様の構造物が観察された。これら6側の内、上部の関節包と連続するものが4側(右1側、左3側)、関節包の上後部と連続するものが1側(左)、関節包の後部と連続するものが1側(右)であった。また、1側(右)において、関節包の全周に付着し、関節腔をほぼ完全に仕切る関節円板様の構造物が観察された。残りの27側(右13側、左14側)においては、関節腔内を仕切る構造物は観察されなかった。組織学的検索の結果、関節腔を不完全に仕切る関節半月様構造物については、関節包上部と連続する4側の内3側(全て左側)が線維軟骨性であった。これらは、関節包への付着部が最も厚く、関節腔に突出する先端に向かって薄くなり、断面は楔形を呈していた。それら以外の関節半月様構造物は全て線維性結合組織で構成され、疎性結合組織と密性結合組織が混在する組織像を呈し、血管を含んでいた。また、関節包の上部と連続するもの以外の関節半月様構造物の厚さはほぼ均一で、断面は平らな板状であった。関節腔をほぼ完全に仕切る関節円板様構造物についても、血管を含む疎性結合組織と密性結合組織が混在する組織で構成され、断面はほぼ平坦な板状を呈していた。【考察】 今回観察した肩鎖関節において、関節腔を不完全に二分し線維軟骨から成る関節半月様の構造物が3側で観察された。多くの解剖学の成書では、関節半月の定義を「線維軟骨で構成され、関節腔を不完全に仕切る板状の構造」としており(Standring & Wigly 2005, 森ら 1982)、この定義に照らし合わせると、これらは関節半月であると言ってよい。これらの関節半月はいずれも関節包の上部に付着し、下方に向かって関節腔内に突出していた。線維軟骨は圧刺激に対して適応した組織であるため(Benjamin 1998)、これらの関節半月は、たとえば肩甲骨が肩鎖関節を軸として上方回旋する際に、肩鎖関節上部の関節面の間に発生する圧負荷を緩衝する機能を持つのではないかと考えられる。線維性結合組織のみからなる関節円板様、あるいは関節半月様の構造物の機能については不明であるが、血管を含む点などの組織構成や断面の形状が関節半月とは全く異なることから、関節半月とは根本的に異なる機能や由来を持つ可能性がある。関節半月が大半の肩鎖関節において存在しなかった理由については、加齢による関節の変性の結果である可能性が考えられるが、本研究から断定することは困難と考えられる。【理学療法学研究としての意義】 肩関節の疾患や外傷は理学療法の臨床場面においてよく遭遇するものである。肩鎖関節に存在する関節半月の形態、組織構成について明らかにし、その機能について理解することは肩関節疾患に対する理学療法を行う上で重要である。今回の研究によって、より正確な解剖学的知見に基づく理学療法を行うための示唆を与えることができたと考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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