抄録
【はじめに、目的】 足部は機能的に後足部、中足部、前足部の3つに分類される。後足部の回内に伴い立脚中期を通して足圧は内側に変位するとされる(Perry J 1992)が、それぞれのアライメントと性差が歩行時のCOP移動に及ぼす影響は明らかではない。本研究の目的は男女毎の後、中、前足部のアライメントと立脚期各相におけるCOP移動との関係を明らかにすることである。【方法】 下肢に既往のない健常男性59名(年齢20.6±1.6歳)と健常女性52名(年齢20.9±2.1歳)を対象に、以下の計測を行った。計測肢は利き足とした。(1)足部アライメント:後足部は踵骨傾斜角、中足部はアーチ沈降度とアーチ高率、前足部は第1中足骨底屈角をいずれも荷重位(片脚立位)と非荷重位(座位)で計測した。全て外反方向を正、内反方向を負とした。各アライメントは男女毎に平均値と標準偏差を用いて、大きい群と小さい群の2群に分類した。(2)足圧分布: F-scan(Tekscan社製)を用いて10mの自然歩行における立脚期の足圧分布を測定した。荷重圧グラフより立脚期を4相(初期、中期前半、中期後半、後期)に分け、各相の足圧中心(以下、COP)の移動距離および速度を計測した。尚、COP位置は足圧分布の最後部と最内側部からの距離を計測し、足長および足幅で標準化した。男女各々で大小2群間の、立脚期各相におけるCOP移動距離および速度をMann-WhitneyのU検定を用いて比較し(p≦0.05)、さらに足圧分布パターンの違いを検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には事前に本研究の説明を行い、協力の同意を得た。【結果】 (1)足部アライメント(荷重位/非荷重位):男性は、 踵骨傾斜角-7.8±3.6°/-5.0±3.3°、アーチ高率15.1±2.3%/17.4±2.4%、第1中足骨底屈角28.4±2.9°/29.1±3.3°で、アーチ沈降度は5.3±3.4mmであった。女性は踵骨傾斜角-8.0±3.9°/-4.5±3.1°、アーチ高率14.6±2.5%/17.0±2.3%、第1中足骨底屈角26.9±3.8°/29.7±3.7°で、アーチ沈降度は5.0±3.5mmであった。(2)COP移動:男性の後足部外反群は初期でCOPの前方移動速度が有意に小さかった。アーチ沈降度の大きい群は初期でCOPの内側移動速度が有意に大きく、中期前半でCOPの内側移動距離及び速度が有意に大きく、後期では内側および前方移動距離、前方移動速度が有意に小さかった。第1中足骨底屈角(非荷重位)が小さい群は、後期でCOPの内側移動距離が有意に大きかった。女性の後足部外反群と内反群では、COP移動距離や速度に有意差を認めなかった。アーチ高率(荷重位)が小さい群は中期後半でCOPの内側移動距離および速度が有意に大きかった。第1中足骨底屈角(荷重位)の小さい群は中期後半でCOPの内側移動距離および速度が有意に大きかった。(3)足圧分布パターン:男性の後足部外反群の足圧は内側に分布していた(4/5名)。女性では後足部外反群、内反群とも足圧は外側に分布していた(6/6名)。【考察】 男性の後足部外反群は、立脚期の初期に踵骨が回内しヒールロッカー機能が低下することでCOPの前方移動が停滞したと考えられた。これに対して女性で有意差を認めなかったのは、足圧分布パターンより、後足部外反群では予め内反にて接地し足部の剛性低下を補償したためと考えられた。男性の中足部アーチ低下群ではPerryの報告と同様に初期から中期前半でCOPの内側移動速度及び距離が大きく、後期では内側と前方への移動距離及び速度が小さかった。また、女性の中足部および前足部のアーチ低下群では、中期後半でCOPの内側移動距離及び速度が大きかった。村田ら(2002)は女性に比べて男性は足趾筋力が強いとしている。男性は荷重が前足部へ移行した際に足趾筋力によりCOPの移動を制動することが可能であるが、筋力が弱い女性では足部の剛性低下を補償できないと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 男女毎に後足部、中足部、前足部アライメントと歩行時の立脚期各相のCOP移動には関連があることが明らかとなった。足底板の処方は性別に配慮するとともに、足部の3つの分類ごとにアライメント評価を行い、歩行時の足部機能把握をしていく必要性が示された。