理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
握る,挟む,押す,の3種運動方向による足趾筋力の影響
金井 秀作北風 草介谷出 康士井出本 裕貴大田尾浩 浩積山 和加子長谷川 正哉島谷 康司大塚 彰
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p. Ab0447

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抄録

【はじめに,目的】 昨今では静的な重心動揺や動的姿勢バランス,さらに転倒にも足趾の機能が大きく関与していることが先行研究で報告されている.そのため理学療法分野においては足趾の可動域増大と筋力強化を目的としたタオルギャザーなど足趾を用いた運動が高齢者や長期臥床患者に対する運動療法として実施される機会が多く一般化されつつある.そのため足趾に対する機能評価として足趾筋力への関心が増加しており,これまでいくつか足趾筋力専用の計測機器が市販されるに至っている.しかし,足趾筋力の重要度が反映されるとされる立位バランスや歩行においては前述の計測機器での足趾の動きが求められることは数少ないと考えられる.そこで今回,足趾の筋力測定について足底を接地した状態で足趾が床面を押す圧力を計測する手法に市販の2種類の足趾筋力測定器を加えた3種類の方法で実施し,それぞれの筋力の差異と足部肢位の影響を検証した.【対象と方法】 対象は健常成人男性44名(平均年齢21.9±3.5歳)とし,体格は平均身長173.5±6.4cmおよび平均体重65.4±8.0kgであった.なお,全身筋力の参考値として利き手側の握力を計測し,標準範囲(48.5±6.6kg)であることを確認した.本研究における足趾筋力の評価では,市販の計測機器を使用した足趾の全屈曲による“握る”動きでの計測(以下,足趾把持力)と母趾と第二趾のピンチによる“挟む”動きによる計測(以下,足趾ピンチ力)の2種類とKYOWA社製引張圧縮両用型小型ロードセル(母趾用,第2-3趾用,第4-5趾用に3個使用)を用いた床面への“押す”動きによる(以下,全趾圧力と母趾圧力)の計3種類で行った.足趾把持力と足趾ピンチ力の計測に使用した市販機器はそれぞれ竹井機器工業社製足指筋力測定器TKK3360と日伸産業社製足指力計測器チェッカーとした.さらに足趾筋力計測の3種類すべてにおいて,それぞれ足関節5肢位(底屈20度,底屈10度,底背屈0度,背屈10度,背屈20度)にて計測した.比較方法では3種の計測方法と5種の足関節肢位が足趾筋力に与える影響を分析するため,二元配置分散分析及び多重比較検定(Fisher's LSD法)で検証した.なお,二元配置分散分析の計測方法因子では全足趾(全趾圧力と足趾把持力)と母趾(母趾圧力と足趾ピンチ力)に関するものに分けて検証した.いずれも危険率1%未満を有意とした.【説明と同意】 研究の趣旨と内容について被検者本人に文書と口頭で十分に説明し,理解を得た上で協力を求めた。また,研究の参加は自由意思であること,参加しない場合に不利益がないことを説明した。【結果】 全足趾筋力の計測法と足関節肢位による結果では計測法(全趾圧力23.8±8.8kg,足趾把持力14.4±4.6kg,p<0.01)においてのみ有意差を認めた.なお,交互作用は確認できなかった.母趾筋力の計測法と足関節肢位による結果では計測法(母趾圧力11.9kg±5.0,母趾ピンチ力4.2±2.1kg,p<0.05)と足関節肢位(p<0.01)の両方に有意差を認めた.多重比較では底屈20度(7.0±4.6kg)と背屈20度(8.5±5.9kg)および底屈20度と背屈10度(8.6±5.7kg)にて有意差(p<0.01)を認め,さらに底屈20度と底背屈0度(8.4±5.7kg)でも有意差(p<0.05)を認めた.なお,交互作用は確認できなかった.【考察】 足趾筋力の動作筋と考えられる筋は,底側骨間筋,虫様筋,足底方形筋,短趾屈筋,短母趾屈筋,長趾屈筋,長母趾屈筋など外在筋と短母趾屈筋や母趾内転筋などの内在筋があげられる.とくに外在筋は内在筋に比べ筋力が強く足関節の底背屈により筋長が変化するtenodesis effectがあるため,何れの計測方法においても足関節肢位は影響を与えると思われたが,その影響は母趾に関する計測法においてのみ有意に認められた.母趾は他趾に比べても強力で力が発揮しやすく,とくに母趾圧力はそのまま床を押すという他の計測法に比べて最も単純な動きであることから前述のtenodesis effectが大きくなったと思われる.計測方法の因子に着目すると全足趾計測法と母趾計測法ともに足趾圧力の方が大きい値となり,運動スキルの視点において筋出力がより容易な方法であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 足趾に対する運動療法および筋力評価において,運動方向や足関節肢位の影響を配慮すべきことが明確となった.また,とくに母趾ついては足関節肢位に注意が必要であることがわかった.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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